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匂い

「妙なこととは魔族について調べていることか? それにしても随分と舐められたものだな。急に乱入して事情も説明しないで止めろとはな。嫌だと言ったらどうする。力ずくでくるのか?」


 狭い室内では自慢の大剣が振り回せないくせに、ガイは不敵な笑みを浮かべる。それを見てボリスの喉を切り裂いた男を制するように、ファジルたちを牽制していたもう一人の男が片手を伸ばした。そして、首を左右に振る。


 今は手出しをするなといったことなのだろうか。しかし、この男の匂い……。


「なあ、あんた……」


 ファジルがそう声をかけた瞬間だった。まるでその後に続く言葉を断ち切るように、男たちは侵入してきた窓から飛び出していってしまう。


 ファジルは宙に浮いてしまったような自分の言葉を飲み込んで、ガイにまだ小脇に抱えられているカリンへ視線を向けた。


「カリン、蘇生はできるか?」


 ガイの手から逃れたカリンは寝台で倒れているボリスの傍に向かった後、ファジルに顔を向けた。そして、金色の頭をゆっくりと左右に振る。


「完全に命が失われています。もうぼくでは蘇生ができないんですよー」


 悲しそうに顔を歪めたカリンの頭にファジルは片手を置く。


「そうか。無理なことを頼んで悪かったな。ありがとう」


「ほえー……」


 気を落とした様子のカリンにエクセラが声をかける。


「まあ、仕方がないわよね。物理的に無理なことなんて山ほどあるんだから。それより、この後始末よね」


「街に常駐している衛兵に言う他はないだろう」


 ファジルの言葉にエクセラは一瞬だけ考える素振りをみせた。


「大丈夫かしら? 私たちが犯人にされるなんてことはないのかな」


 その言葉にガイが難しそうな顔をする。代わりに口を開いたのは不死者のエディだった。


「私たちが魔族について調べているというのは、隠しておくのがどちらにしても妥当でしょうね。大丈夫です。襲撃してきた彼らの言葉を信じるにしても、彼らとこの街の衛兵たちが繋がっている可能性は低いでしょうね。ですが衛兵の上と襲撃してきた彼らの上を辿っていくと、同じところに繋がる可能性が高いでしょう。ならば衛兵たちにも下手な情報は与えない方がよいかと」


「……同じところ……権力者ってことか?」


 ファジルは先程、エディが言った言葉を口にした。その時も思ったことだが、権力者ということは王様ということなのだ。


 俄かには信じられない。何で魔族を調べると王様が怒るのだろうか。やはりその疑問をファジルの中で拭うことができなかった。


 エディはファジルが発した権力者という言葉にゆっくりと頷いたようだった。骸骨の姿を隠すためにつけている仮面が縦に小さく動く。


 そこには先程からいつものふざけたおっさん骸骨の様子は見られない。そんな様子のエディに向かって口を開いたのはエクセラだった。


「ねえ、エディ。あなた、何か知っているんじゃない? さっきから妙に思わせぶりなんだけど……」


 気の早いエクセラの手には既に火球が浮かんでいた。エディはそれに気がつくと手袋をつけた両手をエクセラに向けて慌てたように左右に振る。


「いやいや、エクセラさん。私の知っていることなんて噂話の類でしかないですよ。長く存在していると、そんな余計な知識ばかりが増えるものでして……」


 慌てたように両手を振っているエディ。その口調はいつものようなふざけたものに戻っている。


 エクセラの顔を見る限りでは、エディの言葉に納得した様子はなかったが、手の平に浮かんでいた火球は宙で霧散する。


 ファジルはそれを見て皆に向けて口を開いた。


「いずれにしてもこのままってわけにはいかないな。襲われたとはいえ、俺たちを殺すつもりはなかったみたいだし、こうなった以上はちゃんと弔ってやりたい。まずは余計な嫌疑をかけられる前に、このことを衛兵に報告しようか」


 ファジルのこと言葉に反対する者はいなかったのだった。

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