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侵入者

「となると、その村の長に誰が命じているのかといった話になるかと思いますが……」


 エディが意味ありげにそこで言葉を切った。今のエディにはいつもの面白骸骨の面影はない。やはりそれはそれで偉そうに見えて腹が立ってくるとファジルは思う。


「代々そんなことを村の長に命じることができる存在って……」


「普通に考えるのであれば、それなりの権力者……でしょうね」


 エディがさらりと言う。そして更に言葉を続けた。


「それに脅したりするだけとは思えないですよね。状況によっては命を奪うなんてこともあるのかもしれませんね」


 ……権力者。

 ファジルは心の中でエディの言葉を繰り返した。権力者って……王様ってことか?

 そこに考えが至ってファジルは思わず声を張り上げた。


「いやいや、何でそんな話になるんだ? 魔族について調べると、何で王様が怒るんだ?」


「まあ、そこは色々と事情があるのでしょうね。もっとも、この若者がそれを知っているとは思えませんが……」


 何だよ、色々な事情って……全然、分からないぞ。ファジルがそう心の中で呟きながらボリスに視線を向けた時だった。


「ガイ、カリンを!」


 ファジルは短く叫んだ。

 エディは自分で何とかするだろうとファジルは頭の片隅で考える。何せ面白おっさん骸骨なのだから。


 ガイの動きも巨体に似合わず早かった。カリンを抱えて床の上を転がる。ファジルも同様でエクセラを抱えて床を転がる。


 部屋中に響く破壊音とともに窓を破って入ってきた二つの黒い影。目の部分を除いて全身が黒ずくめの侵入者だった。


 侵入者たちの動きは素早かった。まだ床に転がっている状態のファジルたちに一人が短剣を抜いて牽制。一人が迷うような素振りも見せずに寝台に近づいた。


 室内だ。長剣やましてはガイの大剣を自由に振り回せるような広さはない。ファジルの視界で寝台の上にいるボリスの顔が恐怖から大きく歪む。


「おい、何を……」


 ファジルがそう声を発した瞬間だった。寝台に近づいた男の片手がボリスの喉元で一閃した。


「あ……あっ……あ……」


 瞳に絶望を色濃く浮かべて、ボリスは両手で自分の喉元を必死な様子で押さえる。しかし、それを嘲笑うかのようにして、指の隙間から次々と赤い鮮血が溢れ出てくる。

 

 剣で斬り裂かれた人を見るのは初めてだった。

 確かにファジルも剣を振るう。そのための修練は欠かさずにやってきた。でも、剣を振るう相手は魔獣や魔族であって……。


 ……それが勇者だから。

 魔獣や魔族を懲らしめるのがファジルの憧れる勇者なのだから……。


 ……魔族?

 そう。剣を振るう相手は人族に害を為す魔族であって、人族相手ではないのだ。


 人族相手ではない……では、人族と魔族の違いは……。

 

 混沌と化していくような思考。

 ファジルの視界ではボリスの瞳から光が失われて体が寝台の上に倒れていく。

 表現できないような様々な思いがファジルの中で駆け巡っていく。

 

「お前ら、目立ちたがり屋か? 黒ずくめとは昼間っから随分と人目を引く格好じゃねえか」


 そう口を開いたのはガイだった。この状況にも関わらずその口調には余裕が感じられた。

 ファジルと同じく床を転がったガイだったが、床に片膝をつけて既に体勢を立て直している。ガイはカリンを片手で小脇に抱えたままで、残る片手で床と水平にした大剣を横に薙ぎ払った。


 ファジルたちを短剣で牽制していた侵入者の一人が、短剣を握っていない方の手で腰にある長剣を引き抜く。


 ガイの大剣と侵入者の鞘から引き抜かれた長剣が宙で甲高い音を立てて激突した。


「くそっ、力が入らねえな。部屋が狭すぎる」


 横に薙ぎ払った大剣を防がれたガイが不満気に言いながら言葉を続ける。


「随分と乱暴だな。細かい事情は知らねえが、何も殺すことはねえ」


「お前らには関係のない話だ。こうなりたくなかったら、お前らも妙なことに首を突っ込むのは止めるんだな……次はないぞ?」


 語尾を微妙に跳ね上げて、ボリスの喉を切り裂いた侵入者がガイの言葉に応える。

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― 新着の感想 ―
[一言] シリアスに盛り上がって来ましたね。
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