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生業

「どうやら何も知らない、知らされていない下っ端ね。でも襲撃の実行役なんて、そんなものかもしれないわよね」


 エクセラが普通に酷いことを口にしている。事実なのかもしれないが、他に言い方があるのではとファジルは思う。


「下っ端はいいが、こいつはどうする? このまま放免ってわけにはいかないだろう。俺たちを脅せと命じた奴が失敗したことを知れば、またこいつが来るか、少なくとも同じような奴を送ってくるんじゃないのか?」


「まあ、そうでしょうね。それはやっぱり面倒よね……」


 エクセラが考え込む様子をみせながら言い淀む。


「後腐れがないように処分しちまうか」


 そう言ってガイは人の悪そうな顔をする。先程も思ったことだが、とても正義の山賊を標榜していた人物の言葉とは思えない。それに本当に人の悪そうな顔をしている。


 エクセラとガイの顔を見ている限り、ファジル自身も彼らが本気で言っているとしか思えなかった。


「ち、ちょっと待て。荒事は……どうなんだ?」


 割って入ったファジルにエクセラが大いに不満そうな顔を向ける。その不満そうな顔を見ながらファジルは更に言葉を続けた。


「ほ、ほら、知っての通り俺は勇者になりたい男なんだ。それが無抵抗の者をだな……」


 そう言いながら、ファジルは自分が何故この若者を庇っているのかが分からなくなってきた。


 その言葉に反応して、若者がファジルに救いの目を向けた時だった。ファジルの横手から、小さな黒い影が若者に向かって飛び出した。


「ひょえー! ファジルを虐めるのは、ぼくが許さないんですよー! 天誅―!」


 飛び出してきたのはカリンで、飛び出した時には既に奇声を発しながら若者に向かって宙を飛んでいた。


 聞いてはいけないような音がした気がする。以前も見たことがあるような光景だったかもしれない。カリンが宙で水平に薙ぎ払った杖が若者の側頭部を捉えた。


 その瞬間、弾かれたように若者の体が地面と水平にもの凄い勢いで飛んで行き、土煙りと共に若者の体が壊れた人形のような状態で地面に投げ出される。


 ……多分、死んだな。

 それにしてもカリンさん、相変わらず杖の使い方をまちがっているような……。

 ファジルは心の中でそう呟いたのだった。





 「……こうなったら背景も含めて、知っていることは洗いざらい話して貰うわよ」


 寝台の上に寝かされた若者に向かって、エクセラはその横で仁王立ちとなっていた。若者の名前はボリスとのことだった。


 歳は二十三歳。旅の間に二十歳となっていたファジルより少しだけ年上のようだった。


 カリンに杖で殴られて、大地でぴくぴくしながら瀕死の状態になっているボリスをそのまま放っておくこともできず、ファジルたちはボリスを宿屋に運んできた次第だった。部屋にはファジルをはじめとして、エクセラ、カリン、ガイとエディと全員が揃っている。


「こんな奴に治癒魔法なんて必要ないんですよー。ファジルに意地悪をした人なんて、苦しみながら地獄に行くんですよー」


 ファジルに促されて嫌そうな顔をしながらボリスに治癒魔法を施したカリンは、いまだにぷんすかと怒っていた。神に最も近い種族と言われている天使の言葉とは思えない、罵詈雑言に近いことをさっきから普通に言っている。


「で、俺たちを襲撃しろと誰に言われた?」


「……村の長だ。俺たちの村は代々、それを生業にしている」


 ガイの問いかけにボリスは半ば不貞腐れたように言う。意味がよく分からないとファジルは思う。それを生業のそれとは何なのだろうか。


「それというのは、魔族に興味を持って調べている者に何らかの対処をするという意味でしょうか?」


 エディがずずいっといった感じで、仮面を被っている顔をボリスに近づけた。奇妙な仮面をつけているエディに禍々しいものを感じたのか、ボリスは顔を引き攣らせながら肯定する頷きをしてみせた。

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