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怒るところはそこなのか?

 長剣を抜き払ったファジルの横手からガイの呆れたような声が聞こえてきた。


「お前が怒るところはそこなのか?」


 言われていることがよく分からないので、ファジルはガイを無視することにする。


「かかってこいよ。俺は強いぞ。勇者になりたい男だからな」


 ファジルは不敵に笑う。するとファジルの予想に反して、若者は手にしていた短剣をいきなり大地に放り投げた。


「止めた。あんたら三人が相手では分が悪い。それが馬鹿なら尚更だ」


 若者は肩を竦めてみせる。


「また、馬鹿って言ったな。俺は少しだけ考えることが苦手なだけだぞ」


 若者がはあとばかりに少しだけ呆れたような顔で頷く。


「ねえ、ファジル、ファジルは少しだけ黙っていた方がいいかもね。ファジルに口喧嘩は向かないんだから」


 口を挟んできたエクセラは微妙に片頬を引き攣らせているようだった。隣のガイもあからさまに呆れた表情をしている。


 黙っていた方がって何なんだよと思いつつ、エクセラが言うのであればということでファジルは素直に口を閉じる。


「……で、お前は何でいきなり剣を抜いた?」


 ガイの言葉に若者は意外と素直に口を開いた。


「別に本当に殺そうと思ったわけじゃない。少し脅かそうとしただけだ。本気じゃなかったさ」


「そうか? その割には気合いの入った一撃だったと思うが」


 若者は無言で肩を竦める。そんな様子の若者の前にエクセラが仁王立ちとなる。その手の平には既に人の頭ほどの大きさになる火球が浮かんでいる。


「人にいきなり剣を抜いておいて、敵わないからもう止めたが通るわけないじゃない。それなりの報いは受けて貰うわよ」


 エクセラの言っていることは分かるが、その報いがあんなに大きな火球をぶつけられるのでは、流石に可哀想だろう。


 もちろん、脅しと冗談の類だとは思うが、エクセラの顔を見る限りでは、単純に脅しや冗談と決めつけられないものがあった。


 そのことには若者も気がついたようで、血の気が引き始めた顔をしている。この若者が自分を襲った時にどの程度本気だったのかはファジルに分かるはずもないのだが、その様子を見ていると流石に可哀想になってくる。


「ほれ、この魔法使いの姉さんが怒ってるぞ。この姉さんは怖いぞ? このままじゃ骨まで灰にされちまう。素直に話した方がいい。何で俺たちを襲った?」


 ガイが人の悪そうな笑みを浮かべている。ほぼ悪人の顔だ。正義の山賊という言葉はどこに行ったのだろうかとファジルは思う。


 エクセラの顔とその手に浮かんでいる火球。そしてガイの言葉。若者がごくりと唾を飲み込む様子が見てとれた。


「もう一度、訊くぞ。何で俺たちを、こいつを襲った?」


「……お前たちが魔族を調べているからだ」


「意味が分からんな。何で魔族について調べるとお前に襲われる」


 ガイの言葉にファジルも大きく頷いた。ガイの言うことはもっともで、ファジルにも意味が分からない。


「そんなことは俺も知らない。ただ、お前たちはバルディアの生き残りなんだろう? だからじゃないのか?」


「……説明になってないな」


 ファジルの言葉にエクセラも頷いて口を開いた。


「適当なことを言うのなら、本当に燃やすわよ」


 エクセラの顔を見て本気かもしれないと感じとったのだろうか。若者は慌てたように口を開いた。


「ち、ちょっと待て。本当のことだ。バルディアの生き残りで魔族を調べている奴らがいるから、そいつらを少し脅せと言われただけだ。それに殺せとも言われていない。ただ、あんたたちが相応の手練れに見えたから、こっちも相応の本気を出しただけだ。殺そうと思ったわけじゃない」


 その顔を見ている限りでは嘘を言っているようには見えない。ファジルがエクセラに視線を向けると彼女も同じ意見だったようだ。

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