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隠密の能力

「そうだろうね。勇者と魔族は切り離せない関係だからね」


 彼女は意味ありげな笑みを浮かべながら更に言葉を続けた。


「残念だけど人族と魔族が軍隊同士で争っていたなんて、あの壁ができる遥か昔の話さ。私の曾祖父さんの曾祖父さんぐらいの頃の話さね。あんただって、生まれてから人族の軍隊と魔族の軍隊が争ったなんて話は聞いたことがないだろう?」


 ファジルは頷く。確かにそうだった。魔族のことで聞く話は勇者がどこどこで魔族を討伐したといったような話ばかりだった。


「城壁ができてから、そんな軍隊同士の争いなんてなくなったということなのね」


 エクセラがそういうと彼女は大きく頷く。


「あんな城壁を乗り越えようとすれば、魔族の連中だってそれなりの犠牲が出るだろうからね。となれば、魔族の連中も下手に手は出してこないさ。バルディアの時みたいに少数を城壁内に送り込んで、嫌がらせをするのが関の山なんだろうね。そして、その度に人族の勇者に討伐される。魔族の連中はそんなことを長い間、繰り返しているのさ」


 ……嫌がらせ。

 ファジルは心の中で呟く。だけれども、あのバルディアの街での惨事はそんな嫌がらせといった言葉の範疇を越えている。あの惨事で一体、どれだけの人が犠牲となったのか。


 彼女は尚も言葉を続けた。


「だからあんたたちが何を思ってこの辺境の街に来たのかは知らないけど、魔族云々って言うのなら、完全にお門違いだよ」


 彼女の言葉にファジルとしては頷く他にないのだった。





 「……魔族って何なのだろうな」


 冒険者組合を後にしたファジルは肩を落としていつかと同じ言葉を口にする。


「まあ、前にも言ったけど人族にとっては不倶戴天の敵よね」


 エクセラの言葉にファジルは頷く。そのことはファジル自身も理解している。では何故、魔族が不倶戴天の敵なのか。


 それを知るために魔族の支配地域と隣接するこの街に来たのだが、結局は何も分からない。人族が忌み嫌う魔族のことが全くといっていいほどに分からないのだ。


 そんな考え込むファジルの思考をガイの一言が止めた。


「……お前、何者だ?」


 普段は何かと馬鹿がつくぐらいに陽気なガイが、珍しく剣呑な雰囲気で視線を背後に向けていた。視線を向けると背後には二十代前半に思える若い男が立っている。


 その格好は冒険者風といってよかった。それに腰にある使い込まれた感がある短剣。少なくともこの街で生活している者の格好ではなかった。そして背後とはいえ、こんな近くに立たれるまでファジルはまるで気がつかなかった。


 その思いはエクセラも同じだったようで、急に背後に現れた若者を見て、目を白黒させている。


 問いかけに何も答える様子のない若者を見てガイが再び口を開いた。


「隠密の能力か? お前、何のつもりだ?」


 ガイは剣呑な雰囲気を残したままで厳しい表情を変えようとしない。それを見て若者は口元に僅かな微笑を浮かべた。


「魔族について調べ回っているのは、あんたたちか?」


 隠す必要もないのでその問いかけにファジルは無言で頷く。


「今時、魔族について調べるなんて、勇者かぶれの馬鹿か暇人の馬鹿かのどちらかだな」


 何だよ。とちらにしても馬鹿なんじゃないかとファジルは思う。


「いきなり随分な言葉じゃないかしら?」


 エクセラが半歩を踏み出す。その横顔から察するに、エクセラは既に戦闘体制に入っているのかもしれない。ガイも背負っている大剣に片手を掛けている。


 どいつもこいつも妙に喧嘩っ早いようだった。それにガイは先程、隠密の能力と言っていた。ファジルもその能力には聞き覚えがあった。人族の中でもごく一部の特殊な部族の間で伝わる技能らしい。


 そのような技能を持つ以上はこの若者が只者ではないことは分かるというものだが、いずれにしても喧嘩は止めなければいけない。別に自分には彼と喧嘩する理由はないのだから。

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