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勇者に憧れている感じ

「婆さん、依頼はないのか?」


 その様子に見かねたわけではないのだろうが、ガイが口を開いた。流石、元正義の山賊だった筋肉ごりら。場の空気を読むということがないらしい。


「婆さん? 私はそんなに老けてるつもりはないけどね」


 いや、十分に婆さんだろう。ファジルはそう思ったが、流石にそれを口にすることは思いとどまる。ガイはと言えば、何で反論されたのかが分からないようで、少しだけ不思議そうな顔をしている。


 何も言葉を発しようとしないガイを見て、婆さんが再び口を開く。


「何だい、このでかいのは。黙りこくっちまって」


「ま、まああれですよ。依頼はないのかなって。例えば魔獣退治とか……」


 微妙な場を取りなすようにファジルはそう言った。


「この街の周りは草原だからね。危険な魔獣なんかが出ることはないよ」


 ばっさりと切り捨てられてしまう。そう言われてしまうとファジルとしては、はあとしか言いようがない。


「ここにくるような依頼は大概が商隊の護衛だね。遠方からこの街に来た商隊が、帰る時の護衛を必要とすることが稀にあるのさ。大体は行きの護衛が帰りも勤めるんだけれども、稀に帰りの護衛をするのがいない時があるのさ」


 商隊の護衛。この街をまだ離れるつもりがないファジルとしては、これもまたはあとしか言いようがない。そんなファジルを見て婆さんは更に言葉を続けた。


「何だい、情けない顔をして。こんな寂れた冒険者組合に沢山の依頼なんてあるわけないだろう? 沢山の依頼があれば、あんたたちみたいな冒険者でもっと賑わっているってもんだ」


 急に開き直ってしまったのだろうか。何だかこの婆さん、もの凄いことを言い放った気がする。


「街を離れたくないから商隊の護衛は無理かな。魔獣絡みがないなら、例えば魔族絡みとか……」


「魔族?」


 婆さんの声が一段高く跳ね上がる。何だろう。何か不味いことを言ったのだろうか。少しだけ不安になる。すると彼女はその顔に笑みらしきものを浮かべた。


「魔族っていつの時代の話だい。それとも御伽話の世界かい? 魔族絡みの依頼なんて私はここで五十年働いているけども、そんな依頼なんて一度もないよ」


「一度もない……」


 ファジルの言葉に彼女は大きく頷いてみせる。


「ああ、たったの一度もね。あんなに立派な城壁があるんだ。魔族の連中が入って来られるわけがない」


 こんな話を聞いていると、世の中において魔族の脅威があるのかと思えてくる。でも、実際にバルディアの街は魔族の襲撃を受けて壊滅しているのだ。


 納得できないようなファジルの顔に気がついたのだろう。彼女は再び口を開いた。


「バルディアのことを言っているのかい? 私も話は聞いているよ。かなり凄惨な状況だったらしいね」


 ファジルは無言で頷く。


「魔族の連中がそれをどうやったのかは知らないけど、あんなことは稀だね。きっと少数の魔族が入り込んだのだろうさ」


 少数の魔族がどのようにして王国内に入り込んで、どのようにしてあのような惨事を引き起こせたのかは詳しいことが分かるはずもないのだが、ファジルとしてもそう考える以外にはなかった。それに、エクセラたちも転移魔法で少数が潜入したのだろうと言っていたし。


「何だい、あんたたち、もしかして魔族について調べにきたのかい?」


「いや、別に調べに来たわけでは……」


 言葉を濁したファジルに彼女はあからさまな溜息をついてみせた。


「たまにいるんだよね。魔族に興味を持った変な冒険者みたいのがね」


 ……変……ではないと思うが。

 ファジルは心の中で呟く。そんなファジルの心中を読み取ったわけではないだろうが、彼女はにやりといったような笑みを浮かべた。


「あんたも勇者に憧れている感じなのかい?」


 否定することでもないのでファジルは黙って頷いた。

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