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胡散臭い

 「……何か随分と寂れたところだな」


 冒険者組合がある建物の前でファジルが率直な意見を言う。


 ファジルがそう言いたくなるのも当然かもしれなかった。建物の外見はかなり薄汚れていて、扉に至っては下に大きな穴が空いている。荒くれ冒険者が蹴りつけたのだろうか。仮にそうだったとしても、穴が開いたままで放置しているのはどういった了見なのだろうか。


 そんな感想を抱きながらファジルは室内に足を踏み入れた。その背後にはエクセラとガイが続く。


 ちなみにエディとカリンは宿屋で留守番となっていた。この二人は意外に仲がいい。出会った当初、カリンが不浄な不死者は浄化すると息巻いていた話はどこにいってしまったのかとファジルは思う。


 留守番の二人はエディが持っていた得体の知れない骨から、骸骨兵を生み出すのだと気味が悪いことを言っていた気がする。変なことが起こらなければいいのだが。ファジルはそんなことを思っていた。


 くたびれた感のある扉を押して中に入るのは少しだけ勇気がいるようだった。何か妙なことが起こるような気がしてくる。ファジルがそう考えていると、背後でエクセラが口を開いた。


「いかにも場末って感じよね。魔族との国境沿いの街だと、冒険者に頼むような依頼ごとなんてないのかしら?」


「どうだろうな。魔族と国境を接しているんだ。魔族絡みの依頼ごとがあってもいい気がするけどな」


 そう言葉を返したのはガイだった。ガイの言葉にはエクセラが言ったことに対して懐疑的な響きがあるようだった。


「でも昨日の警備隊の話では、もう長いこと魔族が侵攻してきたようなことはないみたいだったわよ。だったら、魔族が関係するような依頼なんてないんじゃないかしら」


「確かにそうかもしれないな。となると、こんな王国の外れにある組合だと、大した依頼は集まらないということだな」


 エクセラもガイも好き勝手なことを言っているようだった。そんな二人は置いておくことにして、ファジルは短く息を吸い込んで穴が開いているくたびれた扉をゆっくりと押した。妙な予感はするのだが、いきなり誰かが襲ってくることもないだろうと思いながら。


 外にいても室内から人の声が漏れてくることはなかったから、ある程度の予想はしていたのだが……流石に誰もいないとは思っていなかった。


 いや、誰もいないというのは正確ではない。奥に受付台らしきものがあって、そこにはかなり年配の女性が目を瞑って座っている。

 ……どうやら普通に寝ているようだ。


 大体、どの街も冒険者組合と言えば、素性も分からない冒険者たちで溢れているとまでは言わないが、ある程度の活気のようなものがあるものだ。


 それが活気どころか冒険者が一人もいないとは……。

 それに受付台の婆さん、何か寝ているし……。


 建物内に入ったものの声をかけていいものかファジルが躊躇っていると、突然に受付台にいる婆さんが片方の目を開いた。


「何だい? 黙ったままで。泥棒かい?」


 いや、盗みたくなるような金目の物なんてどこにもないのだけれど。

 それに片方だけ目だけ開くって怖いんだけど……

 ファジルはそんな言葉を飲み込んで口を開いた。


「随分と静かなんですね」


「何だい? 会って早々に嫌味かい」


 いや、そんなつもりは全くなかったのだが……。

 そんな言葉を内心で呟いたファジルの代わりにエクセラが口を開いた。


「えっと、私たちは冒険者で、しばらくこの街に留まるつもりなんですよね。だから、何か依頼がないかなって」


「冒険者かどうかは見れば分かるよ。そんな胡散臭い格好をしているんだ。大体、ここに来るのはほとんどが冒険者さ。冒険者以外は冒険者組合なんかに用はないだろうからね」


 胡散臭い婆さんに胡散臭いと言い放たれてしまった。

 婆さんの言葉にエクセラの片頬が派手に引き攣る。大体この婆さん、口が単に悪いだけなのか、そもそもの性格が悪いのか……。

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