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犬の躾

 ファジルは寝台近くにある獅子王の剣を無言で手に取った。


「エディ、あなた、言いにくいことを真正面から斬り込むわね」


 エクセラが片頬を引き攣らせながらエディに言う。


「お褒めいただいたようで。私は不死者なので、人の常識といった妙な気遣いとは無縁な存在ゆえ……」


 何だか言っていることがよく分からない。不死者だから何だと言うのか。よく分からないので、取り敢えずエディの首を刎ねようとした時だった。


 扉を開けてガイが部屋に入ってきた。部屋に入ってきたガイは顰めっ面をファジルに向ける。


「何だ? 部屋の中でそんなに殺気だって。誰かをぶった斬るつもりか?」


「……へ?」


 エディが口を開けて長剣の柄を握っていたファジルを見る。


 ……骸骨がぽかんと口を開いて自分を見ている。


 何だか口を開けた骸骨はとても間抜けな絵面だ。そして間抜けなだけに馬鹿にされているようで、余計に腹が立ってくるのは気のせいなのだろうか。


 エディが慌てた様子で広げた両手をファジルに向ける


「い、嫌ですよ、ファジルさん。ちょっとした冗談じゃないですか」


 少しだけ変態さんというのはちょっとした冗談になるものなのだろうか。それにふざけたおっさん骸骨からそれを言われると更に腹が立ってくる。


「ち、ちょっと落ち着きなさいよ、ファジル。エディが言うように冗談じゃない」


 流石にエクセラも不味いと思ったのだろう。ファジルを宥めにかかる。


 ……だけれども、そもそもはエクセラがことの発端だった気がする。

 そんなことを考えながらファジルはエクセラに視線を向けた。

 

 しかし、エクセラに言われて不承不承ながらもファジルは怒りを飲み込んだ。それが幼馴染みとして小さい頃から互いに築き上げてきた上下関係というものだった。もっとも感覚としては、残念だが犬の躾に近いのかもしれなかったが……。


「ね、落ち着いて、ファジル」


 再びエクセラに言われてファジルは頷く。顔が無愛想なままなのは仕方がないというものだ。人の気持ちなどはそう簡単に変わるものではないのだから。


 そんなファジルの気持ちを代弁するかのようにカリンが口を開く。


「エクセラもエディもファジルを馬鹿にしちゃ駄目なんですよー」


「ちょっと、馬鹿になんてしてないじゃない」


 エクセラが即座に反論したが、カリンはそんなエクセラの言葉などは受けつけないようだった。


「もういいです。ファジル、一緒に来るんですよー。こんな嫌な人たちは放っておくんですよー」


 そう言い放ったカリンに手を引かれて、ファジルはカリンと部屋を後にしたのだった。





 まだ午後の早い時間だったが、街中は行き交う人々が多かった。これが夕方になると鉱山で働く人たちも現れて、街は更に賑やかとなるらしかった。


 そのような人通りの中をカリンがファジルの手を引きながら、ちょこちょこと歩いて行く。カリンが歩く動作に合わせて腰まで伸びている金色の髪が揺れていた。それが日に照らされて輝いている。


 ……何か……神々しいな。

 そんなことを内心で呟いていた背後のファジルにカリンが振り返った。その両頬はこれ以上にないぐらい膨らんでいる。


「皆、ファジルのことを虐めて酷いんですよー」


 まあ、虐められているといえばそうなのだが、どちらかといえば馬鹿にされているといった感じだろうか。そしてそれは自分の行動に全てが起因している気もする。


「まあ冗談の部分もあるしな」


 別にエクセラたちを庇うつもりもないのだったが、カリンがあまりに怒っているようなので、ファジルはそう口にした。


「ファジルは小さい子が少しだけ好きなだけなんですよー。だからちょっとだけ変態さんなだけなんですよー」

 

 ……カリンさん、色々と認識が残念なことに何故か間違っているようだった。そこには冗談の欠片も感じられない。

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