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何かの役には立つ

 「お金もちゃんともらえたじゃない」


 エクセラが誇らしげに言うと、その言葉にカリンが嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。その度に黄金色に輝く髪の毛が宙を泳いでいる。その顔はまさに天真爛漫と言ってよいものだった。この顔は一つの芸術だな。ファジルは内心で呟く。


「よかったんですよー」


 エクセラの言葉に続いてカリンが飛び跳ねながら言う。騒動の中心人物たちが何を言っているんだとファジルとしては思わなくもなかったが、お金を全額もらえてよかったことには間違いない。


 それにしてもとファジルは思って背後を振り返った。ファジルの背後からは黒い外套を着ている不死者が呑気な顔……骸骨だから表情はないのだが……でついてきてる。


「なあ、エディと言ったよな。何でお前がついてくるんだ?」


 ファジルの言葉に対して、えーっとばかりに不死者のエディが両手を上げて体を少しだけのけぞらせた。


 ……何だろう? この様子、いらっととするんだが。


「そんな、酷くないですか? 私の家は皆さんに燃やされちゃったし、そもそもあそこから追い出されて、私は行くところなんてないんですよ。何にもしてないのに皆さんからあんなに酷いことをされて……」


 何もしていない……酷いこと……。

 そして、やたらに皆さんを強調されている気がする。

 

 もっとも、そう言われてしまうと返す言葉がないファジルだった。しかし、行くところがないからといって、自分たちについてくるのは違う話なのではとファジルは思う。


 それに何か立ち振る舞いや口調が前と変わってないか? 前はもっと言葉に重みのようなものがあった気がする。今は口調といい、立ち振る舞いといい単なるおっさん骸骨のようにしか思えない。加えて、いらっとするようなこの立ち振る舞い……。


「不死者は浄化の刑なのですよー」


 またカリンが物騒なことを言いながら、両手で杖を振り回し始めた。


「これはこれは美しい天使のお嬢さん……」


 エディは降参をするように両手を上に上げて言葉を続けた。


「私は悪い不死者ではなくて、いい不死者なので大丈夫なのですよ」


「ほえー? そうだったのですかー?」


 エディの言葉にカリンが不思議そうに小首を傾げている。

 

 ……いや、あれだけ浄化だと騒いでいて、それだけで納得するのかよ。

 ファジルとしてはカリンにそう言いたいところだった。


 そんな様子のファジルにエクセラが苦笑を浮かべた。


「まあ、いいんじゃない。旅は多い方が楽しいわよ」


 家を燃やす原因をつくった張本人が呑気にそんなことを言っていてよいものなのだろうか。あの時、屍鬼を魔法で火だるまにしなければ、エディの家がもえてしまうことなどはなかったのだから。ファジルは救いを求めてガイに視線を向ける。


「まあ、いいんじゃねえか。何ていっても不死者だからな。きっと何かの役には立つさ」


 このおっさん骸骨が?

 懐疑的なファジルの視線を感じたのだろう。エディは軽く胸を張ってみせた。


「数百年を生きてきたこの私、世の中に知らないことなどはないのですよ」


 軽く胸を張る素振りを見せているエディ。

 その言葉や立ち振る舞いも含めて、何か凄く嘘くさいと感じるのは自分だけなのだろうかとファジルは思う。


「でも実際、不死者なんて簡単になれるものでもないのよね。知識や魔法の能力も含めてエディが言ってることも、あながち嘘ではないと思うわよ」


 まあ確かにこんな骸骨になど簡単にはなりたくないとファジルも思う。こんな骸骨になる決意をしただけでも大したものだ。その気骨だけはファジルとしても認めてあげてよい気がする。それに何となく悪い奴ではないことも分かる。


「あれえ? ファジルさん、さっきから何か嫌がってないですかー? あんな酷いことを私にしておいて……」


 いや、酷いことをしたのはエクセラとカリンであって、自分ではないのだが。そんな言葉を飲み込みながら、ファジルは引き攣った笑みを浮かべたのだった。

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