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売っちゃいましょうよ

「ねえ、野宿が続いたんだし、たまにはこういう宿屋に泊まるのもいいんじゃないかしら」


 そう言っているエクセラの深緑色をした瞳は既に輝いているように見えた。


「暫く泊まれるぐらいのお金はあるけど、そんなに長くは泊まれないぞ」


 ファジルに言われて、エクセラは少しだけ小難しそうな顔をした。


「そうよね。お金のことはそろそろ考えた方がいいわよね。ある程度のお金がないと、気ままに旅を続けるってわけにもいかないものね」


 ……いや、別に気ままにということでもないのだが。

 ファジルは心の中で呟いた。


「何だ、お前たち、金があまりないのか?」


 ガイが不思議そうな顔をして言葉を続ける。


「金もないのに旅をしようなんて、随分と思い切ったな」


「なら、ガイには金があるのか?」


「あるわけないだろう。正義の山賊をやっていたんだ。金なんて稼げるはずがない」


 言い放ったガイはどこか誇らしげだった。

 無償で正義の山賊行為を行うこともどうかとは思う。だが、そもそも金も持たずに半ば強引に他人の旅についてくるなよとファジルは思う。


「まあ、いいんじゃない。お金なんて何とかなるわよ。魔獣退治でもすればいいんだから」


 さして大きくもない村だったとはいえ、エクセラはその中でも裕福な商家の娘だ。よって、お金というものには無頓着なようだった。


 カリンはどうなのだろうかと一瞬だけ思ったファジルだったが、カリンのほえーといった顔を見て、訊くのを止めることにする。


「ま、お金は何とかなるかな」


 そんなことを考えながらもファジルは天性の前向きさを全面に押し出して、宿屋に向かうのだった。





 「で、どうするのよ? 後、二泊しかできないみたいじゃない」


 そう言っているエクセラの顔は、今まで見たことがないくらいに真剣だった。目が完全に据わっている。


「いや、二泊も厳しいぞ」


 そう答えたファジルにエクセラの片頬が引きつる。


「エクセラが豪遊するからなんですよー」


 カリンがエクセラに非難の目を向けた。


「はあ? 豪遊なんてしてないわよ。カリンだって見たこともないような高いお菓子を食べまくっていたじゃない!」


「エクセラが入った別料金の特別風呂より、全然安いんですよー」


「はあ?」


 エクセラが眦を吊り上げる。


「まあ、どっちもどっちだな。で、どうする。野宿でもするか?」


 そう皆に尋ねたガイは、別に野宿でも一向に構わないようだった。何とも逞しい限りである。


「いやよ、野宿なんて!」


 エクセラが即座にそれを否定した。


「いや、でも野宿なんてここに来るまで、何度もしてきたじゃないか」


 そう取りなそうとするファジルにエクセラは怒りがこもっている瞳を向けた。


「それは仕方がないでしょう。山の中に宿屋なんてないもの。野宿だって何だってするわよ。でも、今は街の中にいて、こんなに素敵な宿屋があるのよ。それを横目に野宿なんて、絶対に嫌だからね!」


 どんな理屈なんだよと思いながら、ファジルは溜息をついた。


「そうよ。カリンがいるじゃない。このなんちゃって幼児を売っちゃいましょうよ。大丈夫。ファジルみたいな変態ってどこにでもいるんだから」


「ほ、ほえー?」


 エクセラの言葉にカリンが可愛らしい口をあんぐりと開けている。


 大体、売っちゃうってどこにだよとファジルは思う。それに、ファジルみたいな変態ってどういうことなのだ。


「エ、エクセラだって、その使いどころのない残念おっぱいが、夜の怪しい大人の宿屋で大活躍する時なんですよー。おっぱい星人は巷にたくさんいるんですよー」


「はあ? 何が残念おっぱいなのよ!」


「エクセラだってぼくをファジルみたいな変態に売っちゃうって言ったんですよー」


 だから、俺みたいな変態って何なんだよとファジルは心の中で呟く。

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