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暇だな

 ファジルたちがコザの村に来てから二週間以上が過ぎ去ろうとしていた。基本的にはすることがない。ファジルとしては、たまにガイと朝方の時間帯に手合わせをするぐらいだ。


 ガイ自身は見回りとやらで何かと忙しいらしい。日中は村にいることがほとんどなかった。


 当然、ファジルは暇を持て余す格好となっていた。剣の素振りも何度かしてみたのだが、すぐに飽きてしまう。


 隣で一緒に寝台の上に座っているカリンもファジルと同様に暇なようで、先程から可愛らしい口をただ開けている。

 ほえーといった様子だった。


 エクセラだけは少しだけ離れた机で分厚い魔導書を広げていた。何かと勤勉なのは小さい頃から変わらないようだ。


「……暇だな」


 ファジルは呟いてみた。それでその暇が解消されるわけではないのだが、そう呟く以外にすることがないのだ。


「ほえー」


 カリンが口を開けたまま同意の頷きをする。そのような二人にエクセラが呆れたような顔をする。


「ちょっと、いい加減にしなさいよ。あんたたち、馬鹿丸出しよ」


「仕方がないだろう。暇なんだから」


「そうなんですよー。暇なんですよー」


 反論するファジルとカリンにエクセラが溜息をつく。


「することはあるんじゃないの? ファジルは剣の鍛錬をすればいいし、カリンは全然駄目な攻撃魔法の練習でもすればいいじゃない」


「……嫌だ。一人だと飽きる」


「嫌なのですー。優しい天使は攻撃魔法が嫌いなのですー」


 二人の言葉にエクセラの頬が強張り始める。


「じゃあ、散歩にでも行きなさいよ。そんな顔で部屋にいられると私が気になるのよ」


「嫌だ。面倒臭い」


「面倒なのですー。ここで口を開けているのですー」


 二人の言葉を聞いて、エクセラの顔が更に激しく引き攣った。それと同時にエクセラの手に火炎が浮かび上がる。


「お、おい、カリン、不味いぞ」


 ファジルの言葉にカリンもエクセラの様子に気がついたようだった。


「ほ、ほえー? ぼくは外に出かけてくるのですよー」


 カリンは立ち上がると、そそくさと部屋を後にしようとする。


「おい、待って。カリン、俺も一緒に行く」


 カリンを追いかけて部屋から出ようとするファジルの背後で、エクセラの壮大な溜息が聞こえたのだった。





 カリンと一緒に外に出たものの、やはりやることがない。取り敢えず民家の低い石垣にカリンと二人で腰掛けてみた。


「暇ですけど、長閑ですねー」


 確かに長閑な村だった。行き交う村人たちも誰ひとりとして険しい顔をしている者はいない。


 母親に連れられた小さな子供などは、ファジルとカリンに手を振ってくれたりもする。カリンも笑顔で子供に手を振り返している。


 そんなカリンの横顔を見ていると、その可愛さで鼻血が出そうな気になってくる。もっとも、またこんなことを考えているとエクセラに怒られそうな気がするので、その思いをファジルは頭から追い出す。


 結局、黒竜が近くに棲みついてしまったといっても、いま目の前に危機があるわけではないから村自体は平穏なのだろう。


 魔族も同じなのだろうかとファジルは思う。人族において不倶戴天の敵である魔族。


 魔族の支配地域と隣接でもしていない限りは、魔族の脅威などを感じることはないのかもしれなかった。だが、脅威を感じなくてもファジルも含めて人族は魔族を嫌う。それを不倶戴天の敵として認識している。


 何故なのだろうか?

 遥か昔から人族と魔族は争いを繰り返しているということだけで、人族は魔族を嫌っているのだろうか?


 もちろん、それは魔族を嫌う理由にはなり得る。だが、人族の多くは魔族からの脅威を感じてはいないのだ。魔族の脅威を感じているのは魔族が支配する地域と隣接する人族だけ。


 魔族から直接的な被害を受けていなくても、魔族を嫌う理由が生まれてしまうものなのだろうか。


 そして、魔族を打ち払う絶対的な存在である勇者……。


 ……駄目だ。

 考えすぎて頭が痛くなってきた。

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