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器がでかい

「師匠は今年、四十六歳になるのかな。常に酔っている以外は元気だぞ」


 常に酔っている。事実を事実として述べただけなのだが、そんなファジルの言葉にガイは苦笑を浮かべる。


「そうか。随分とあのおっさんも歳をとったんだな。今はどこにいるんだ。お前の故郷か?」


 その言葉にファジルは軽く頷いた。


「ここから西にあるグイザールっていう大きくもない街だ。そこで小さな道場を開いている。門弟は多くないけど、毎日の酒代には不自由しない感じだな」


 グイザールという街の名前に聞き覚えがないのだろう。ガイは首を捻っている。言ったように大きな街ではないので、それも無理はないのだろうとファジルは思う。


「まあ、好きな酒が毎日飲めるのなら、何よりだな。機会があれば顔を出してみるさ。もっとも、十五年前の話だ。そんな昔に一年だけ剣を教えた餓鬼の顔なんて、名前も含めてあの飲んだくれは覚えていないだろうけどな」


 そう言ってガイは豪快に笑う。それに合わせてファジルが笑顔を浮かべた時だった。エクセラがカリンを伴って姿を見せた。


「朝のこんなに早くから、何で剣なんて振り回してるのよ」


「別に剣を振り回していたわけじゃない。鍛錬だ」


 自分の嫌味に真顔で返すガイにエクセラは嫌な顔をする。


「朝から鍛錬なんて凄いのですー。偉いのですー」


 カリンはどこまで分かっているのか、嬉しそうな顔をしてぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「カリンも早起きで偉いな」


 ファジルがそう言ってカリンの頭を撫でると、カリンは更に満面の笑みとなる。気がつくとエクセラとガイが微妙な顔をしている。


「何だよ、その顔は?」


「いや、まあ……何かな」


 ガイは微妙な顔のままで視線を逸らす。


「そうよね。何か気持ち悪いのよね。ファジルがしてると犯罪の匂いしかしなくて、衛兵さんを呼びたくなってくるのよね」


 何だか酷い言われようだ。ファジルとしては普通に子供を可愛がっているだけなのだから。


「またエクセラはそんなことを言って。気持ち悪いって言う方が気持ち悪いんですよー」


 カリンは両頬を大きく膨らませて、よく分からないことを言う。


「はあ? 気持ち悪いから気持ち悪いって言ってるんでしょう。大体その見た目、えせ幼児なのが問題なんじゃない!」


 えせ幼児って何だよとファジルは思う。それに幼児が問題なわけでもないとも思う。エクセラとカリンが剣呑な雰囲気となってきたところでガイが割って入ってきた。


「喧嘩をするな。一緒に旅をしてきた仲間だろう?」


「はあ? この胡散臭い天使が勝手についてきただけなんだけど」


「ぼくは胡散臭くなんてないんですよー。エクセラのお化けおっぱいの方がお化け過ぎて、胡散臭いのですよー」


「はあ? 胡散臭いって何よ。これは天然物よ! それに、またお化けおっぱいって言ったわね」


 エクセラの右手に火の玉が浮かぶ。


「ひょえー! 爆乳魔導士が、またぶちぎれたのですー」


 カリンが背中にある白い翼を揺らしながら、とてとてと逃げ出して行く。


「またって何よ? 待ちなさい、カリン! それに、爆乳じゃなくて、爆炎なんだから」


 エクセラが怒鳴りながらカリンの後を追いかけていく。


 彼女たちが何をしに来たのか分からないままで嵐のような一幕が終わった後、ガイが呆れたようにファジルの顔を見る。


「いつもこんな感じなのか?」


「ああ、平常運転だな」


 ファジルの言葉にガイは更に呆れたような顔をする。そんなガイにファジルは口を開いた。


「まあ、あれはあれで賑やかでいいぞ」


 その言葉にガイは大口を開けて笑い声を上げる。


「器がでかいな。流石、俺の弟弟子だ」


 ここでも弟弟子を強調するか……。

 体が大きければ笑い声も大きいガイの声を聞きながら、ファジルはそう思うのだった。

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