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同じ言葉

「斬!」


 その言葉と共に放たれた上段からの斬撃はファジルの予想を越えた速度だった。この斬撃を受け止めるのは流石に無理だと咄嗟に判断して、ファジルは身を捩ってその斬撃を躱す。


 先程までファジルがいた地面に大剣が突き刺さり、周囲の地面には地割れのようなひび割れが走る。何という威力なのだろうか。というか、馬鹿力なのかとファジルは半ば呆れながら思う。


「ちょろちょろするな、この馬鹿が」


 男は大地にめり込んだ大剣を引き抜きながら、不満げに怒声を発した。


「いや、ちょろちょろするだろう。そんなのを喰らったら、間違いなく死んじまうからな」


 ファジルは言葉を返しながら、さてどうしたものかと思案していた。言い返したものの、その言葉ほどに余裕はなかった。


 大きな体に似合わず、男が繰り出す大剣の斬撃速度は予想以上に速い。避けられないことはなかったが、大剣を避けた後で斬り込むことは難しそうだった。あの斬撃の速度であれば斬り込む前に、剣を避けた後の返す一撃で真っ二つにされてしまう可能性がある。


 ならばどうする?

 ファジルは自問する。

 答えは明確だった。斬撃を出される前に斬ればいいのだ。何よりも単純で分かりやすいとファジルは思う。


 ファジルはその思いと共に男との距離を一気に詰める。


「斬!」


 ジアス流一刀断ちは敢えてつけなかった。またエクセラに馬鹿にされそうだったから。


 素早く男の懐に入った横手からの一撃だった。男は大剣を垂直に地面へ突き立て、その一撃を弾いた。火花とともに甲高い金属音が周囲に鳴り響く。


「ほう。速い斬撃だ。危ねえ、危ねえ」


 男は大地に突き立てた大剣を引き抜いて再び上段に構え直す。男のその顔を見る限りでは、まだまだ余裕があるように思えた。


「ふん、お前もそんな馬鹿でかい剣を振り回してる割には素早いな」


 ファジルの言葉に男は口の端を僅かに緩めて笑ったようだった。


 再び剣を構えた二人が対峙する。ひりつくような緊張感が周囲を包んだ時だった。エクセラが唐突に口を開いた。


「あんたたち、斬、斬ってさっきからうるさいんだけど。何なのよ、それは? 剣士の間で流行ってる掛け声なわけ。全然、格好よくないんだけど」


 格好がよいから言っているわけではないのだが。ファジルがそう思っていると、男が口を開いた。


「そんなわけがねえだろう。こいつは師匠からの受け売りだ。この言葉と共に気を練ってだな、そいつを一気に剣と共に放出するんだ」


 男が胸を張って答えている。

 そんな男の様子を見ながら、胸を張れるほどの剣技ではないのだけれどもとファジルは思う。


「はあ? 何か嫌な予感しかしないんだけど。その師匠からの受け売りが、何で二人揃って同じ言葉なのよ」


 エクセラが呆れた声で言う。それを聞いてファジルも確かにそうだと思う。自分からもそれは師匠から受け継いでいる基本的な剣技なのだ。男もそれはそうだといった顔をしながら、ファジルに向けて口を開いた。


「お前、剣の師匠はいるのか。誰だ?」


「ジアス師匠だ」


 男はファジルの言葉を聞くと大きく溜息をついて剣の構えを解いた。


「あの、飲んだくれのおっさん、まだ生きていやがったか」


「師匠の知り合いか?」


 ファジルが訊くと、男は心の底からといった感じの嫌そうな顔をしてみせた。


「俺の師匠だ。ま、師匠っていっても、剣を教わったのは一年ぐらいだけどな。お前、飲んだくれのおっさんのところで剣を何年学んだんだ?」


「……十年ぐらい」


「……お前、本当に馬鹿だろう?」


 呆れたように言った男が急に後頭部を両手で押さえてしゃがみ込んだ。


「何だ? 痛え。めちゃくちゃ痛えぞ!」


 しゃがみ込んだ男の背後にはカリンが立っていた。


「ファジルを馬鹿にするのは、ぼくが許さないんですよー」


 カリンがぷんすかと怒っている。どうやら男の後頭部に向けて、例のへろへろ光弾を容赦なく撃ち込んだらしい。

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