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野暮ったい

「光弾!」


 カリンの小さな手の平から、さらに小さい光の玉が出現した。出現した光の玉は、ぶるっとまるで身震いするかのように宙で震えると、ふらふらと火蜥蜴に向かって宙を頼りなく前進し始める。


 だが、ファジルがあっと思った時には、力なく地面に落下して光の玉が霧散してしまう。


 エクセラは絶句して光弾が消え去った大地を凝視している。


「えへっ。ぼく、攻撃魔法は苦手なんですよー」


「苦手どころの話じゃないわよ! 全然駄目じゃない! 届く前に、へろへろって落ちてなくなったじゃない! 何なのよ! あのへろへろ玉は!」


 エクセラの容赦がない言葉にカリンの両頬が一気に膨らむ。


「エクセラの魔法だって、ぼくと同じじゃないですか。消えてなくなったんですよー」


「同じじゃないわよ! 私のはちゃんと届いたもの!」


 いやあ、似たようなものだろうとファジルは思う。だけれども怒られそうなので口にはしない。


「二人とも、そんなことで喧嘩をするな。それよりもカリン、炎を防ぐ防御魔法を展開できるか?」


「できるのですー」


 カリンが片手を挙げてぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「ちょっと、どうするつもりよ。懐にでも飛び込むつもりなの?」


 エクセラがそう言った瞬間だった。カリンが両腕を上下に慌ただしくばたばたさせながら悲鳴に近いような声を上げた。


「ほえー。でっかい火の玉なのですー。丸焼けになるのですー!」


 カリンが言った通り、火蜥蜴から吐き出された巨大な火球が眼前に迫っている。人ひとりなどは簡単に飲み込んでしまえるほどの大きさだった。


 ファジルは向かってくる火球の前に立ち塞がるように立つ。


「ちょっと、ファジル……」


 背後から心配そうなエクセラの声が聞こえてくる。


「大丈夫だ……」




 ファジルはそれだけを言うと腰を落として、鞘の中にある獅子王の剣の束を握る。時間的余裕は既にない。火球はすぐ近くにまで迫っている。


「ジアス流一刀断ち……斬!」


 裂帛の気合いと共に、ファジルが左下段か右上段に向かって獅子王の剣を鞘走らせた。

 次の瞬間、火球はファジルの斬撃を受けて、二つに割れて左右のあらぬ方向へと飛んで行く。


「ほえー、凄いのです。でっかい火の玉が真っ二つなのですー」


 カリンが嬉しそうな声を上げる。


「ジアス流一刀断ち……もの凄く野暮ったいんだけど。大体、ジアス流なんて聞いたことがないし」


 それはそうだろうとファジルも思う。実際、そんな流派などはなくて単に飲んだくれ師匠の名前を何となく付けただけなのだから。


 ……でも、そんなに野暮ったかっただろうか?

 結構、格好いいと思ったのだが……。


 そんなことを考えていると、カリンが再び片手を挙げて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「はーい、はーい、ぼく、いいことを思いついたのですー」


「はあ? 急に何なのよ?」


 エクセラが眉間に皺を寄せて、深緑色の瞳をカリンに向けた。


「ぼく、光の魔力を剣に付与できるんですよー。だって、天使ですからねー」


 カリンは軽く胸を張って、更に言葉を続ける。


「エクセラは火を防ぐ魔法を使えるんですかー?」


「当然でしょう。私の防御壁は火蜥蜴ごときの火炎なんて問題ないわよ。完璧よ」


 どの辺りが当然なのか分からないとファジルは思うが、エクセラは自信満々だった。


「なら、それをファジルに展開して、ぼくがファジルの剣に光の魔法を付与するのですー。それで、蜥蜴野郎を真っ二つにするのですー」


「ふんっ」


 エクセラは鼻から大きく息を吐き出してファジルに深緑色の瞳を向けた。


「炎や熱は防げるけど、火蜥蜴の物理攻撃は防げないわよ。それでも懐に潜り込める?」


「余裕だ」


 根拠はどこにもなかったが、ファジルは反射的に返事をする。そんなファジルを見てエクセラは少しだけ口許を緩めた。


「そうね。ファジルなら大丈夫ね。信じてるわよ」


 ファジルはエクセラの言葉に無言で頷く。

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