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何でも屋

 背後を振り返ると裾を引っ張っているのはエクセラだった。エクセラはファジルと目が合うと無言で赤毛の頭を左右に振る。


 その様子でエクセラが言いたいことは何となくファジルにも分かった。だけれども、やはり黙っていることはできなかった。


 勇者ってそういうものじゃないだろうとファジルは単純に思うのだ。


「村の皆が困っているんだ。自分たちではどうにもならなくて困っているんだ」


 そう言いながら進み出てきたファジルに、ロイドが不思議そうな顔をして深緑色の瞳を向けた。


「そうだね。できることなら、僕も助けてあげたい。だって、僕は勇者だからね。でも、僕は今、他にやるべきことがあるんだ」


「やるべきこと?」


 ロイドはそう繰り返したファジルの言葉に小さく頷いた。


「あまり公にはしたくないのだけれども、退魔の盾と呼ばれる防具がこの村の先にある下弦の滝にあってね。僕たちはそれを取りに来たんだ。退魔の盾は魔法防御にとても優れていると言われている。これは魔法を得意とする魔族たちの討伐に対して大きな力となるはずだ」


「それなら火蜥蜴を退治してからでも……」


 ファジルの言葉にロイドは頭を左右に振ってみせた。それに合わせて柔らかそうな金色の髪が宙で揺れる。


「それがね、退魔の盾を下弦の滝から持ち出すことができるのは三十年に一度。満月が最も大きく満ちる時だけなんだ」


「い、いや、でも……」


 尚も食い下がろうとするファジルに、ロイドは芝居がかったような大きな溜息をついてみせた。


「分かったよ。よし、じゃあこうしよう。計算では満月が最も大きく満ちる時まで後十日だ。この村から下弦の滝までも十日ほどらしい。僕たちはすぐに出発して退魔の盾を手に入れたら、またすぐにこの村に戻る。それで火蜥蜴を退治しようじゃないか。僕たちも話を聞いた以上は、無視するのも気分がよくないからね」


 ……気分がよくない。

 ファジルはその言葉を飲み込んで、別の言葉を口にした。


「それまでにもし火蜥蜴が現れたら……」


「それは知らないな」


 ロイドはそれまでと変わらず爽やかに笑う。そして、瞬時に笑顔を消してみせた。その顔を見て思わずファジルの喉がごくりと鳴る。


「君は何か勘違いをしてないか。勇者は皆の何でも屋ではないんだ。そんな一人ひとりの要望には応えられるはずもないさ。僕の体は一つしかないのだからね」


「な……」


 ロイドの言葉に反論しようとするファジルをエクセラが押しとどめた。


「やめときなさい、ファジル。確かにこの勇者さんの言う通りよ。だから、何を言っても無駄よ」


「でも、エクセラ。皆が困っていて……」


 エクセラに反論しようとするファジルたちの前に、勇者一行のマリナが進み出てきた。


「あら、どこかで見た顔だと思っていたら、エクセラじゃない」


「お久しぶりですね。マリナ先輩」


 エクセラは心の底から面白くないといった顔をしている。


「王立魔法学院開校以来の才媛と言われたあなたが、王宮への出仕を断ったって聞いて驚いていたのだけれど……こんな所にいるなんてね」


「そうですね」


 返事をするエクセラは話す気もないのか、あらぬ方を向いている。そんなエクセラとマリナをカリンが興味深そうな顔で下から見上げていた。


「ふん、それでそちらの皆さんと冒険者の真似事でもしているのかしら。それとも、荒くれ者にでもなったのかしら」


 エクセラの態度に気分を害したようで、マリナが鼻で笑うようにしながら言う。


「どちらでもいいじゃないですか。マリナさんには関係ない話ですから」


「あら、さんだなんて他人行儀ね。先輩でいいのよ」


 マリナの言葉にエクセラは返事をしない。


「何だ、マリナ、このお嬢さんと知り合いだったのか」


 勇者のロイドが少しだけ驚いた顔をする。


「まあね。でも、どうでもいいわ。単なる後輩よ。さっさと行きましょう」


 マリナはロイドに言葉を投げつけるように言うと、さっさと歩き始めた。


「ほえー、エクセラと同じぐらい怖いのですー」


 離れていくマリナの背中を見ながらカリンがそう言った瞬間、金色の頭がエクセラに叩かれる。


「何で基準がいつも私なのよ!」


「ほえー」


 カリンは涙目で頭を擦っている。

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