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壊れたものは叩いてみる

 エクセラはファジルを振り返って、盛大に鼻から息を吐き出した。ファジルが呆れ顔で問いかけてくる。


「正気に戻ったのか?」


「何が正気なのかは知らないけど、そうみたいよ。壊れたものは叩いてみる作戦よ!」


 エクセラはそう言って胸を反らせた。


「ほ、ほえー……ものすごく乱暴な作戦なのですー」


 カリンはまだ涙目だ。


「はあ? 文句あるわけ? ファジルにあんな危ない魔法を放っておいて」


 エクセラが睨むと、カリンは両手をばたばたと上下に動かす。


「ほえー! 怖いのですー。そんなこと、ぼくは知らないんですよー」


 慌てたように言うカリンを前にして、エクセラは軽く溜息をつく。


「ですよー、じゃないわよ。さあ、行くわよ。ファジルを一緒に助けるんだからね!」


 エクセラの言葉にカリンが大きく頷いた。


「はーい! ぼく、頑張るんですよー」





 理由はよく分からないが、カリンは元に戻ったようだった。ファジルは安堵の溜息をつきながら、改めてマウリカに視線を向ける。


「また壊れたか。所詮は不良品だな」


 ファジルの視線を受けてマウリカが口を開く。ファジルは長剣の切先をマウリカに向けた。


「おい、爺さん、人を簡単に壊れてるとか言うなよ?」


 ファジルは明らかな怒りの感情を言葉にこめる。


「人? あれは天使であって、人ではないぞ?」


 それはそうだろうとファジルも思う。だって、カリンは天使なのだから。


「じーさん、そういうことじゃない。物のように言うな。俺はそう言ってるんだ」


「何だ? 知らないのか? あれは物だ。言わば魔力で動く人形だ」


「適当なことを!」


 ファジルは一気に距離を詰めると、上段から獅子王の剣を振り下ろした。マウリカが防御壁を魔法で展開していたようだ。その一撃はあっさりと弾き返されてしまう。


「怒っているのか? 事実だぞ。人形を人形と言って何が悪い」


 マウリカは心底不思議そうな顔をしながら、言葉を続ける。


「まあ、因子を持つ者は変わった者が多いからな。勇者も然り、貴様も然りだな」


 そこでマウリカは小首を傾げて、笑い出す。


「どうやら私もそうかもしれん」


「そんなのは見解の相違よね、マウリカ先生。ファジル、下がって!」


 叫んだのはエクセラだった。マウリカとの会話が聞こえていたのだろう。


 エクセラの声とともに、十数個の火球が飛来してきた。巻き込まれるわけにはいかないので、ファジルは長剣を構えたままで三歩、四歩と後退する。


 轟音とともに火球が炸裂し、炎と爆風がマウリカを呑み込んだ。


「ファジル、ごめんなのー」


 爆風をものともせずカリンが、とてとて走ってくる。ファジルのところに来ると、カリンはそのままファジルの胸に勢いよく飛び込んできた。ファジルはその流れのままでカリンを抱き上げる。


「カリン、大丈夫か?」


「えへへ、大丈夫なのー」


 腕の中のカリンは満面の笑みだ。。


 可愛らしい。

 思わず頬が上気するのをファジルは感じた。


 次の瞬間、ファジルの頭が派手な音を立てた。


「あんたたち、こんな場所で、こんな時に何してんのよ!」


 エクセラの片頬は派手に引き攣っている。


 こんな場所で、こんな時に人の頭を簡単に叩かないでほしい。そう思うファジルだったが、それを口にできるはずもない。口にすればさらに酷いことになるのが目に見えている。


「ほらっ! さっさと離れなさいよ!」


 エクセラはファジルが抱き上げて宙に浮いているカリンの片足を握って引っ張り始める。


「ほえー! 引っ張るのは止めるんですよー。危ないんですよー」


「何が、ほえーなのよ! 誰が正気に戻してあげたと思ってるのよ!」


「えへっ! そんなのぼくは分からないんですよー!」


「はあ? 何、言ってるのよ! ほら、いい加減に離れなさいって!」


 エクセラがさらにカリンの足を強く引っ張る。

 ……またこの展開らしかった。


「引っ張ったら、駄目なんですよー」 


「お、おい、エクセラ! 危ないって!」


 ファジルも堪らず声を上げた。そのあとは当然と言うべきか、必然と言うべきか。

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