何で師匠に勝てると思ったの?
「ありがとうな。何だか最近、俺はエクセラにお礼ばかりを言っている気がするな」
ファジルはそう言って笑う。
「べ、別にお礼なんていらないわよ。本当のことを言ってるだけなんだから」
エクセラの顔がさらに赤くなった気がする。エクセラはそこで軽く咳払いをして言葉を続けた。
「それより、エディも言っていたけど、これからどうするかを考えないとね」
「そうだな。このまま、ここにいるわけにはいかないもんな。でも、王国に戻るわけにもいかないし……」
頷いてはみたものの、ファジルには正直、どうすればよいのか分からない。
「そうね。こんな状況だものね。急にどうすればいいかなんて分からないわよね」
エクセラもファジルの言葉に軽く頷いた。
「でも、私たちは色々と秘密を知ったのよ。勇者がこのまま、私たちを放置しておくことはないんじゃないかな」
「そうか? 別に俺たちがそれを知ったからって、何かができるわけじゃないだろう? 俺たちは何の力もない王国民なんだから」
王国に対して何の影響力もない自分たちが真実とやらを知ったところで、王国側がそれに脅威を覚える必要はない気がする。
「確かにそうかもしれないわね。でも、王国はそれを今まで完璧に隠そうとしてきたのよ。そこまでする必要があったかどうかっていう話は別にしてね」
確かに全ての書物から魔族の存在自体を消そうとするなんて、正気の沙汰ではない。エクセラが言うように、そんな必要が本当にあるのかと思ってしまう。
「だから、その話を少しでも知っている私たちを王国が抹消しようとしても、不思議じゃないわよね」
「また勇者たちが、俺たちの前に現れるってことか?」
「残念ながらその可能性は高いわよ」
勇者一行が再び自分たちの前に現れると、エクセラは言っている。あの時、自分は手も足も出なかった。
怒りに駆られていたから。
油断していたから。
そう言い訳をするのは簡単だ。しかし次にロイドと対峙した時、自分はロイドに勝てるのだろうか。エクセラたちを守ることができるのだろうか。
「エディが言ってたんだけど……」
エクセラがそう前置きをしてゆっくりとした口調で口を開いた。
「因子を持っているからって、勝手に強くなるわけじゃないの。その因子を自覚して、その力を受け取り自分の力に変えていく。そんな感じらしいのよね」
残念だが言っていることか全く分からない。
「エクセラはどうなんだ?」
エクセラも自分と同じで因子を持っているとの話だった。ならば、エクセラは魔力を発動する時にどうなのだろうか。ファジルは単純に思ったのだ。
「魔道士は因子の力を発揮しやすいみたいなのよね。無意識のうちに因子の力を使っているみたいよ」
「どういうことだ?」
「魔法って最初に体内で魔力を練るのよね。そして描いた魔法陣を出口にして、魔法を発動させるのよ。すごく簡単に言うとなんだけど」
ファジルは頷く。よく分からないが、言われればそんなものだろうとファジルは思う。
「魔力を体内で練る時に、因子と必然的に結びつくらしいのよね。だから私は強力な魔法の発動ができるみたい」
つまりは意識しなくても因子を利用できるということか。何だか因子とやらは随分といい加減だなと思う。
魔導士はそうだとして、自分のようの剣士はどうなのだろうか。どうやって因子とやらの力をつかうのか。
そんな思いが顔に出たのだろうか。エクセラが再び口を開いた。
「エディからその話を聞いたとき、私は何となく思ったのよね。ファジルも同じだったのかなって」
「同じって何が?」
エクセラの言うことが全くわからない。
「あの時、ファジルは何で師匠に勝てるって思ったの? だって自分の師匠なのよ。普通に考えれば、師匠に勝てるわけないじゃない」
「どうなんだろうな……」
ファジルは首を捻って言葉を続けた。
「でも、師匠は俺に剣の構え方しか教えていないって言ってたぞ?」
「……そうね。でも、今はそういうことじゃなくて……」
エクセラの片頬が少しだけ引き攣ったようだった。