お目付け役
そんな決意をファジルがしていた時、エディが姿を見せた。
「おや、ファジルさん、お目覚めのようですね。エクセラさん、カリンさんもこれで安心するというものです」
そう言いながらファジルに顔を向けているエディ。魔族最後の王とのことだったが、やはりファジルにはただの骸骨にしか見えない。
「エディにも迷惑をかけたみたいだな」
「あれ? ファジルさん、何だか随分と殊勝な感じじゃないですか」
いや、それはそうなるだろうとファジルは思う。魔族だの、滅ぼされたのだの、魔族最後の王だのと聞かされたばかりなのだから。
何も答えないファジルにエディが再び口を開いた。
「ファジルさん、私は私ですよ」
そりゃエディはエディだろうとファジルは思う。エディは尚も言葉を続けた。
「魔族だの、私がとても偉い王様だったのだの……全部、昔の話です。今の私は不死者で、不死者の王で、ファジルさんの仲間ですよ」
「ほえー? エディは前からぼくたちの仲間なんですよー。おもしろ骸骨なんですよー」
事情をよく分かっていないのか、カリンが小首を傾げている。とても偉い王様だったなんて自分は思っていないし、そもそも不死者の王は自称だろうとファジルとしては言いたくなってくる。
「そうね。エディはエディだものね。今は私たちの仲間よ」
エクセラの言葉にファジルは頷いた。確かにエクセラとカリンの言う通りだった。
以前は何者だったのか。そんなことは関係ないのかもしれない。今は自分たちの仲間なのだ。
ファジルがそう思った時だった。今度はガイが姿を現した。なぜかガイは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「騒がしいと思えば、どうやら気がついたようだな。エクセラもカリンも、びーびー泣いて大変だったんだぞ」
「はあ? 泣いてなんていないわよ!」
エクセラが反論している。
「すまん、迷惑をかけた」
そのファジルの言葉にも、ガイの苦虫を噛み潰したような顔は変わらない。
「まあ、無事ならよかった」
ガイはそれだけを言って、踵を返してしまう。
この状態だから無事ではないのだけど。ファジルがそう思った時だった。ガイが背後を急に振り返ってファジルに視線を向ける。
「因子があるからって、俺より強いわけじゃねえからな!」
ファジルは、はあとばかりに頷いた。因子の話はエクセラから聞かされていたものの、それが自分の力にどう直結しているのか、全く分からない。
「因子だか何だか知らないけど、弟弟子には負けられないってことでしょう」
エクセラはそんな様子のガイを見て苦笑を浮かべている。
そんなものなのかとファジルは思う。筋肉ごりらとしては色々と複雑らしい。
「なあ、エディ。因子があると、勝手に強くなるものなのか?」
「いやいや、そんな都合のいい話があるわけないじゃないですか。強くなるには本人の努力が必要ですよ。因子は単なるきっかけですからね」
それはそうだろう。何かを持っているからと言って、勝手に強くなってしまったら、日頃から努力をしている者に対して申し訳がないというものだ。
「さて、意識を取り戻したばかりのファジルさんには少し酷ですが、私たちはこれからどうするのかを考える必要がありますね」
「どうするって……」
エクセラが珍しく言い淀んでいる。
「もう王国には戻れないですからね。私たちは王国に、勇者に逆らう札つきです。このまま王国に戻ったら、たちまち捕まって打ち首です」
エディは冗談のように言っているが、その通りなのかもしれないとファジルは思いながら口を開いた。
「俺たちが魔族の国にいるのは分かっているのかな」
「さあ、どうでしょう。ただ、いずれは分かることかと」
「いずれは分かるってどう言う意味?」
エクセラが口を挟んでくる。
「まあ、そうですね。今は上手く作用してないみたいですけど、お目付け役がいるようですからね」
「お目付け役? だからどう言う意味よ?」
エクセラが苛立ったような声を上げる。しかし、エディは珍しくそれを意に介さないようだった。
「まあ、いろいろと事情があるようですからね。私も不確かなことは口にできないですよ」
「何よ、それ!」
言葉を濁すエディに対して、エクセラがぷんすかと怒り出す。