009 色々と知る
連れて来られたのは普通の民家だった。
食堂に行くと思ってたけど、予想外だったわ。
この村には食堂とか宿は無いのかもね。
中に入り勧められた椅子に座る。
少し待ってると女性の人が木で出来た茶碗のようなものを持ってきた。
食事は先割れスプーンみたいなものでするようだ。やっぱり箸じゃないか。
「ほい、お待たせ。おかわりもあるからね」
「ありがとうございます!!」
茶碗の中身は……これは麦とろ……か?
こっちに飛ばされる1ヶ月前に食べたわ。
中は米じゃなくて麦だな。完全に麦。全部麦。
かかってるのはとろろ、というか山芋だな。
おや? という事は、今居る森にも山芋あるんじゃないか?
クソ神獣め、収穫してくれれば良いのに! 教えて探してもらおう。
神獣に憤慨していると、女性が麦とろに赤い粉をかけた。
なんだろ、これ? 一味唐辛子かな?
早速いただく。
あっ! 赤い粉は塩だ! そして美味い!!
異世界の飯は美味しくないってのが定番なのに美味い!! ありがたい誤算だ!!
おかわりをもらい夢中で食べてると、さっきの男がやってきた。
「計算出来たぜ」
「ふぉんとうでふか」
「…………いいから食ってろ。で、説明するから食いながらで良いから聞いてろ」
さすがに食いながらの返事は失礼だったか。
でもしょうがないじゃん。異世界最初の食事なんだから!!
「ベーア3頭で6万ドーラだ。1頭2万ドーラで買わせてもらう」
お金の単位はドーラか。流石に円では無いよな。
この世界でも万という単位は万なんだな。分かりやすくて助かる。10進数なのもありがたい。
「安いと思うかもしれないが、血抜きもしてなかったし、毛皮にはべっとりと血が付いていたからだぞ?」
安いか高いかも分からないんだけど、どうやら買い叩かれているらしい。
まぁ、文句は無い。シロが狩ってきたヤツだし。金になればそれだけでありがたい。
「で、飯が1杯300ドーラな。3杯食ったようだから900ドーラ引かせてもらうぜ?」
「了解です」
丁度食べ終わったので、返事出来た。
飯が善意で無料で食えるとか考えてなかったので、何の問題も無い。タカリじゃないんだから。
「じゃあ59100ドーラ払うぜ。今持ってくる」
「あっ、ちょっと待ってください。これ、持ち帰れますか?」
「ん? まだ誰か居るのか?」
「いえいえ。俺が夜に食べるんですよ」
「そうなのか? なら他の食べ物の方が良いんじゃないか?」
「他に何があります?」
「肉があるからそれを売ってやるよ」
「じゃあそれで」
「4500ドーラになるけど、良いか?」
「はい」
「まぁ、持ち込んでくれたから少し安くしてやるか。小銭も面倒だし、4100ドーラで良いぜ。じゃあ残りは55000ドーラか、今持ってくる」
残金があるなら問題無いです。
しかし小銭って言うくらいなんだから、お金は貨幣なんだな。お札は無いのか。
水を貰い飲んでいると、男が戻ってきた。
何かの葉に包まれた物と、銀色の硬貨が5枚と銀色の四角い穴の空いた硬貨1枚渡してきた。
「お前はあの森に住むのか?」
「その予定ですね」
「ふむ……それなら問題無いな」
「え? 何か問題になるような事でも?」
「あぁ。ただ単に村には住めないってだけだ」
まぁね。知らないヤツをいきなり村に住まわせるなんてしないよな。
神獣や子供の事があるから、住んでも良いと言われても困るけど。
「この国はな、一応住民の登録が必要なんだよ。だから知らないヤツを勝手に住まわせると面倒な事になるんだ」
「まぁそうでしょうね」
「おっ、理解出来るか? 一番わかり易いのは税金だな。住みながら払わないっていうのは、最悪逮捕される」
「あれ? でも税金を増やしたければ、登録させて住まわせる方が良いんじゃ?」
「そりゃそうだ。だが他国から来たって事は、その国の税金が減るって事だ。国民を返せなんて話にもなりかねんだろ?
少人数の税金と国同士の面倒事、どっちを取るかって話だよ」
うむ、分かりやすい。
しかし村人でもこんな事知ってるんだな。ラノベの影響か、村人なんて何も知らずに貴族に文句を言うだけかと思ってたよ。失礼しました。
「でもそれじゃあ森に住むのは良いんですか?」
「本当はダメだけどな。だけど獲物を売る事で村にも街にも恩恵はある。だからそこには目を瞑るんだ。
しかし調べが入る事はまれにある。その時は悪いが知らなかったって事にさせてもらうぞ?」
最悪切り捨てる、と。
知らないヤツをかばうよりも村の方が大事だもんな。
良いヤツだからって出身不明な人間を村人総出で庇う、なんてご都合展開よりも理解出来るわ。
それに獲物は買い取ってくれるし食料も売ってくれる。それなら何の問題も無い。面倒事が起きそうなら逃げれば良いんだし。
「じゃあ狩った獣や採取した物は、また売りに来ても?」
「それは問題ないぜ。ってか、頼むわ」
「了解です」
「血抜きくらいして来いよ?」
「ど、努力します……」
「一応言っておくが、魔獣を狩ったら、血抜きするなよ? 知ってると思うが」
「え~と、知りません。どういう事です?」
「へ~、お前の居た国では知られてないんだな。魔獣の血は精製すると塩になるんだよ」
「そうなんですね!」
「あぁ。田舎で塩を入手する貴重な方法だからな。だから魔獣は高く買うぜ?」
「了解です!」
麦とろにかけてくれたのは魔獣の血を精製した物だったのか。
まぁ、俺にはキャンプ道具の中に塩があるから必要無いけど、高く売れるならシロにお願いしておこう。