003 大事な器官
「まずお前の性欲を無くす」
「は? はい? えっ、ちょっと、何言ってんの?!」
何で『生活能力を与える』話が、俺の性欲を無くす話になってんの?!
「ちゃんと説明しろよ!! いや、説明されても納得出来る話じゃないけどさ!!」
「やれやれ、面倒だのう」
「超、重要な話!! むしろこれが一番重要と言っても過言じゃないくらい!!」
「しょうがない。一度しか言わぬからちゃんと聞いているように。
これから行く世界には魔力という概念がある。ここまでは良いか?」
「いや、そんなに理解力が無い人間じゃないし、ラノベで耐性がついてるから大丈夫。
だから、はよ続きを!」
「うむ。魔力は生きとし生けるもの全てが持っている物だ。それは勿論植物であろうと道端に落ちている石でも同じだ」
「原子みたいなものかな?」
「全然違う。まぁ、生きて活動するのに必要な物と思えば良い」
「エネルギーみたいな感じか?」
「まだその認識の方が近いかもしれぬな」
エネルギーとか栄養素といった感じなんだろう。
植物にもあると言ってたし、食べる事で補充出来るのかも。
「そしてお前には魔力が無い」
「まぁ、世界が違うからね。あると言われた方がびっくりだわ」
「体内に備蓄する器官も無い」
「異世界人だからね」
「そんな人間があの世界に行けば、呼吸しただけで死ぬ」
「うわーお。驚きの情報をありがとう。俺、行きませんから」
「落ち着け。そこで性欲だ」
「全然、繋がりが理解出来ない」
「三大欲求の一つである性欲を魔力に変換して、睾丸を備蓄器官として使用する」
「はい、そこが理解出来ない!」
「では、生きていくうえで、不要な器官がお前にあるのか?」
えっ? そう言われると……。
無くなっても困らない物?
五感は勿論ダメだろ? 当然それに付随する目や鼻や口といった器官もダメ。
脳は絶対必要だし、内蔵も要らない部位は無い。
骨や皮膚も必要だし……。
「あっ、ムダ毛! これはどうだ?!」
「それで良いならそれにするが、毛としての機能を果たせなくなるぞ?
そしてムダ毛という細かい分類は出来ないので、全身にある毛全てとなるぞ。髪や鼻毛もだな」
「も、もしかしてハゲる?」
「魔力を消費すれば減っていくだろう。逆にどれだけ魔力が減ったか分かりやすくなるという利点もあるな」
う~む、難しいところだ。
ハゲは嫌だし、鼻毛が無くなるのも困る。鼻毛やまつげはゴミが入らないようにしてるフィルターだからなぁ。
よく考えたら眉毛も無くなるのか。それはイヤだなぁ。
「う~ん……あっ、虫垂だっけ? あの盲腸の時に切除するやつ。あれって不要な器官って聞いた事あるぞ?」
「古い情報だな。虫垂は免疫を作り出す器官だ。腸内の細菌のバランスを保つのに必要な器官だぞ。
それで良いなら別に構わんが」
「あ、ダメです」
マジか~。知らなかったわ。
「脂肪ってのも……ダメだよなぁ」
「魔力を集めたら太り、消費したら痩せる。このような人間で良ければ」
「やっぱ、無しで」
魔力を貯めすぎて体重200kgとかになりたくない。
「どうだ? 他に良い器官は無いであろう?
それに性欲を無くす事でメリットもある。あちらの世界で子供を残すような事が出来なくなる。異世界人の痕跡を残すとよくないのでな。
ついでに言えば、そのような時に子供を放置されても困る」
「お前が言うな!!!」
ソレが原因で問題起こしたくせに、人の性欲にはごちゃごちゃ言うとはなんてヤツだ。
しかし、言わんとする事は分かる。
自慰行為を見られたくないし、そういうお店に行く場合に子供の面倒を誰が見る?という問題もある。
万が一結婚でもして子供が出来た時、神の子を自分の子じゃないと扱うようになる可能性もゼロじゃない。
「心配せずとも、こっちに戻ってくる時には元に戻してやる」
くっ、正論っぽくてムカつく。
PCを使って不要な器官を調べたいが、時間が止まってるからそれも無理っぽい。
短時間では思いつかないのが悔しい。
もっとラノベを読んでおけば良かった。
異世界に行った主人公は性欲をどう処理してるのか。犯罪以外で。
「納得したか? では話の続きだ」
「納得はしてない!! してないが…………あ、諦める。どうせ抵抗しても無駄なんだろ?」
「無駄だ。送り込む事は決定しているのでな」
「ちっ。分かったよ。でも、本当に戻った時は元に戻せよ!!」
「当たり前だ。
さて、魔力問題は片付いた訳だが、一文無しであちらの世界に放り込まれても生活出来ないであろう?」
「あ、金くれるのか?」
「あちらの世界の人間が作った金なぞ所有しておらぬ。そもそも国によって金は違うので用意のしようがない」
言われて納得。
地球だって、国で使われてる金は違うもんな。日本円で1億円貰っても、トルコとかに送られたらどうしようもない。
どっかの国が世界統一でもしてない限りは共通通貨なんか無いだろう。
だって通貨発行って莫大な利権だもん。地球でもどっかの財閥が力を握ってるって噂だし。
「という事で、キャンプ道具を渡す。それで生活するが良い」
「キャンプ?! やった事も無いのにソロキャンプ?!」
「今の日本で流通している物の中で一番良い物を用意してやろう。だから心配するな」
「いやいや、そもそも、やった事無いって言ってんの! あっ、もしかして、チート能力付き、みたいな?」
「いや? 普通の物だが?」
そこは破れないテントとか、電気もガスも必要無いコンロとか用意しろよ!
「そうだよ! ガスとか電池とか切れたらどうすんだよ!」
「なるほど。それには気づかなかった。では『収納箱』を用意しよう。その中に使い終わった物を入れると、新品になる箱だ」
残念。古い物が新しくなるだけか。
これがラノベなら、新しい地球産の物を大量に入手して売りさばいて一攫千金となるところなのだが。
「あっ、使い終わった物ってので閃いた! オムツ! オムツも用意しろよ?」
「ふむ。子供の為か。確かに必要だな。用意してオムツも同じシステムで使えるようにしてやろう」
ちぇっ。オムツも大量に入手出来れば大儲け出来ると思ったのに。
使った物を入れる事で新品が入手出来る仕組みだと、1つも他人に譲渡出来ないな。二度と手に入らなくなるから。
よく考えてやがるぜ。
「あっ、箱で思いついた! ほらアイテムボックスとかインベントリとか、異空間に保存するみたいなのはくれないのか?」
「あちらの世界に無い魔法なぞ渡せぬわ」
「無い世界で使うから良いんでしょ!」
「それを入手してどうするのだ?」
「えっ? 便利じゃない? 入れて運ぶだけで大儲け出来そうだし」
「なるほど。子の為では無いのだな。ではやはり却下だ」
「ウソウソ! 子供の為だって! ほら、移動する時にキャンプ道具運ぶでしょ? そんな荷物持ってたら赤子を抱けないな~」
「ではキャンプ道具だけ仕舞えるようにしてやろう。他の物は何も入らぬ。これで問題無いな?」
くっ! どうしても異世界チートはやらせてもらえないようだ。
異世界なんて「鑑定」「無限収納」「ヒール(魔法)」のどれかを持っているだけで他の能力なんか無くても無双出来るのに(ラノベでの知識だが)。
まぁ、どういう訳か、主人公はそれを上手く活用しないんだけどね。目立ちたくないとか変な理由で。
鑑定出来れば商人として大成出来るだろうし、無限収納があればゴミ収集業者するだけで安泰、ヒールなんてルビを変えるだけで万能(笑)。
なのに日雇い労働者のような冒険者になろうとする。命の危険があるのにな。現代人のくせに殺戮しまくるし。怖ぇ~。
「これで問題無いな? では送るぞ?」
「待って待って!! まだ聞きたい事は沢山あるぞ!!」
「もう面倒くさい。あちらで神獣にでも聞け」
「面倒?! 面倒って言った?! 俺は助ける側だぞ?! そちらには説明義務がある!」
「神にはそのような義務は無い。ではちゃんと頑張るように。失敗すればこちらの世界に帰れないと思え」
「酷っ?! 強制労働かよっ!」
文句を言ったところでどうにもならなかった。
次の瞬間には森の中に居たのだから。
本当に問答無用で送りやがった!!