015 リシャ宣教師
「私は宣教師をしているリシャという者です。今から帰るので歩きながらお話しましょうか」
リシャ宣教師は、そう言いながら村の外に向かって歩き始めた。
俺は慌てて横に並ぶ。
するとリシャ宣教師は小声で話し始めた。
「他人に聞かれたら困る話も、これなら話せますしね」
なかなか気遣いの出来る人のようだ。
まぁ、個人的には聞かれて困るような事は無いので問題は無いんだけども。
神力の事だって事実だろうし。
「俺の話を誰も信じてくれないんですけど、それでも聞きますか?」
一応確認は取っておく。
ウソを話す気は全く無いけど、村人は誰も信じてくれていないからね。未だに難民だと思われている。
「どのようなお話でも信じますよ。疑っていたらこのような仕事は出来ません」
そんなものなのかな?
宗教家って信じたい事だけを盲目的に信じるってイメージだけど。
そんな事を話していると、村の外に出てしまった。
だがリシャ宣教師の足は止まらない。どうやらある程度は村から離れるつもりのようだ。
あまり離れられると困るんですけどね。獣とか魔物が出ても俺は戦えないし。
「この辺りで良いでしょう。ここなら誰も聞いてないと思いますよ」
「そうですか。でも獣とか出たら……」
「私がある程度戦えるので大丈夫です。そうでなければ村々を回る事が出来ませんからね」
宣教師は武闘家だった。
変な事を話せば粛清されてしまうんだろうか? 怖い。
「じゃ、じゃあ話しますけど……信じられない話だと思いますよ。
ウソ言うな!って怒ったりしませんよね?」
「明らかにウソだと分かるような話だと怒るかもしれませんが」
そう言ってニッコリと笑うリシャ宣教師。
どう考えても怒られる未来しか見えないんだけど?
「そう身構えないでください。
この場合のウソとは見ただけで分かるようなウソの事ですよ。例えば『自分は金髪なんだ』とかですね」
確かに俺は黒髪だけど。
でもなぁ……それに匹敵するような内容なんだよなぁ。
「じゃあ、話しますけど。途中で止めずに一応最後まで聞いてください」
「分かりました」
念押しをしてから、異世界人である事・神に頼まれて子供を保護しに来た事・神獣の助けで生活してる事、等何もかも話した。
実は少しだけ希望も持っている。
ラノベから得た知識というか、アレな話だけど。
要は『神の子なら保護しなくては!』と言ってくれないかな?というものだ。
ラノベでは、保護するもしくは政権に利用する為に動く、という事がよく書かれている。
何故か冒険者になりたがる主人公や自由に動き回りたい主人公が、保護という名の拉致を嫌うんだけど。
しかし俺は期限付きだし、この世界を見て回ろうとも思ってない。
日本に帰りたいし、安全に暮らしたい。もし最強というチート持ちだとしても命の危険のある冒険なんかしたくない。
ならば拉致だとしても保護してくれるなら縋りたい。
それに保護されれば、子供の面倒は見てくれるだろう。育児素人の俺が面倒を見るよりもよっぽど良いはずだ。
行動の自由が無くなったとしても、地球に戻れるまでの期間だけ我慢すれば良い事。
最悪なパターンは、子供の後見人という立場の俺の存在が邪魔になるから殺すって場合だけど。
レアケースだと思うし、シロという神獣に助けてもらえば良いかなと考えている。
結局の所「国や教会で俺の面倒を見てください」という事だ。贅沢は言いませんのでお願いします。
全てを聞いたリシャ宣教師は、唸っている。さすがに信じられないのだろう。
そりゃそうだと思うよ。「異世界から来ました」の一言だけでもう何も信じられないと思う。
リシャ宣教師は5分くらい唸っていたが、突然何かを思い出したようにハッと顔を上げた。
そして信じられない一言を発した。
「分かりました。全てを信じましょう」
「えっ?! 信じるんですか?!」
「ええ。信じますとも」
「え~と、確かにウソは言ってないんですけど、かなりウソっぽい話ですよ?」
「確かにそうですが、信用に値する所がありましたので」
「えっ?! どこの部分が?!」
「神獣の話です。宣教師にのみ教えられる秘密の伝承があるのですが、それは『神獣は耳が長く赤い目をした大きな獣である』というものです」
「それを俺が誰かから聞いていて、それっぽく話したとは思いませんか?」
「それはありえませんね。宣教師が漏らす事は決してありませんので」
「なぜ宣教師内で伝わっているんです?」
「宣教師という立場上、あちこちに移動するので。もし遭遇した場合に誤って敵意を向けない為ですね」
納得の説明だ。
そうか、シロは宣教師達には有名な存在だったのか。
「会わせて頂けますね?」
会わせます! 会わせますから、ズズイと近寄って来ないでください!!