血が繋がっていなくても
"コンコン"
「父さん、失礼します。」
と、父の書斎をノックして入っていったのは兄。
「おお、光か。どうした?」
「みさ、結婚決まりましたね。」
「そうだな。本当に良かった。社長というのもあるが、悠くんはきっとずっとみさを大事にしてくれるよ。」
「それで、父さん、みさにあの事は……」
兄は心配そうに、父にたずねる。
「ああ。まだ、伝えてはいない。明後日、婚姻届を出して家を出る様だから、明日伝えようと思う。」
「そうなんですね。みさ、どんな反応するのかな…
自分がこの家の子でない(血の繋がりがない)と分かれば…心配です。」
「大丈夫だ。例え血の繋がりが無いとしても、家族であることには変わりないのだから。みさは、わしの娘だ。光もよく言わずにいれたな。それと…」
と、父は言いかけて止めた。
「僕から知らせるのは、違うと思って。言いそうには何度かなったけど…
父さんが今、何を言いかけたか分かります。父さんには分かってたんですね。僕の気持ちが。みさを好きになってしまった事を。
二十歳になって、みさが養子だと聞いた時。ずっとモヤモヤしたあの気持ちが、みさを好きだと言うことだと分かって…
ずっとです。ずっと好きでした。」
兄は寂しそうに答えた。
「光、すまない。光がみさと結婚したがってたのは何となく気付いてたが…やはり、みさとは兄妹で居て欲しかった。」
「分かってます。みさにとって、僕は兄。僕がみさに好きだと言ってしまうと、みさから兄を奪ってしまう事になる。
それにもう、みさに結婚相手が決まって諦めもつきました。頼りがいの無い人なら諦めもつかなかったと思いますが、社長という地位は勿論、みさを見るときのあの表情。悠さんだったら、きっとみさを幸せにしてくれるでしょう。」
「そうだな。本当に良い人が見付かって良かった。」
「それでは、部屋に戻ります。」
パタンと扉が閉まり、兄が部屋から出ると、
「お、お兄ちゃん…」
みさが涙を流しながら、部屋の外に立っていた。
「み、みさ、いつからそこに…?」
「お兄ちゃんが…お兄ちゃんが、お父さんの部屋に入って直ぐ…」
みさは泣きながら、やっと会話している感じだ。
「今の話、全部聞いたのか?」
みさはコクンと頷く。
兄はそんなみさを優しく抱き締め、
「そうか…どうする?このまま父さんと話するか?」
みさは首を振る。
「とりあえず、一旦みさの部屋に行こうか。」
みさはまた、コクンと頷き、兄に抱えられながら部屋に戻る。
「……えと、あ、そうだ!飲み物入れてくるから待ってろ」
と、兄は一旦部屋を出て、温かい紅茶を入れてみさの部屋に急いで戻る。みさの部屋に戻ると、みさは、ベッドにもたれて座っていた。
「みさ、大丈夫か?紅茶を淹れてきたから飲んで?」
兄は優しくそう言うと、みさにティーカップを持たせる。
「お兄ちゃん、ありがとう……」
みさは無理に笑顔を作ってにこっと微笑んだ。
みさはゆっくりと、紅茶を飲んでふぅ…と、ため息をつき、ゆっくりと話出した。
「お兄ちゃん、さっき言ってた話、本当なの?私が養子…だって…いうこと…。」
「…そうだよ。後、無理に笑わなくて良いよ。急にあんな話聞いてしまったら、辛いよな…」
「うん…お兄ちゃん、私は何処から来たの?」
「それについては、俺も良く覚えていないんだ。みさが来たのは、多分、俺が3歳くらいの時だと思う。みさはまだ生まれたばかりだったんじゃないかな。覚えてるのはそれ位で、その時の記憶はあんまり無いんだ。それに俺がみさと血が繋がってないって聞いたのも、二十歳の時なんだ。」
「そうなんだ…」
「詳しいことは父さんか母さんに聞いてみて。」
「分かった…。あ、後ね、お兄ちゃんが私の事を好きっていう…」
「……」
(どう言えば良いんだ?みさにはさっき、気持ちはばれてしまってるし、正直に話すしかないかな。)
「お兄ちゃん……」
「…みさ、驚いたよな?
けれど、もう…みさが聞いてしまった以上、隠しても仕方ないから言うな。そうだよ、俺はみさが好きだ。…これからもきっと、好きでいると思う。」
「うん…」
(お兄ちゃんはどんな気持ちで、お見合いを見ていたのだろう。私が好きな人の話をする時も…)
「あ、のさ…」
「お兄ちゃん?」
「…とな、みさの事、抱き締めて…
その、キス…しても良いか?今だけ…最後、に……」
(お兄ちゃん…そんなに私の事を…
1回だけなら…良い…かな…シリウスさん、ごめんなさい。今だけ許して…)
みさは心の中でそう思いながら、
「う、うん…大丈夫、良いよ?」
「みさ……」
兄はみさを抱き締め、顔を近付けた。
みさは、ぎゅっと目を瞑り顔を上げた。
その瞬間…
チュッ…と
兄はみさのおでこに優しくキスをした。
「みさ、目を開けて?」
そう言われ、目を開けると…
悲しそうな…寂しそうな顔をした兄が、
「ごめんな、みさ。でも、ダメだよ?良いよなんて言っちゃ…みさはもう、明後日には結婚するんだ。悠さんを裏切るような事はしちゃダメだ。」
「お兄ちゃん、ごめん…」
「謝るな。みさは俺の為にしようとしてくれたんだもんな。試すような事をして、本当にごめん。
それに…きっと、キスをしてしまうと気持ちが収まらなくなる。その先も…止められなくなる。抱いてしまいたいとさえ、思ってたんだ。そんな事をすれば、もう兄妹でいられない。まだ、ちゃんとみさの兄として居たいんだ。」
「お兄ちゃん、お兄ちゃんはこるからもずっと私ののお兄ちゃんで居てくれる?」
「当たり前だろ。今までもこれからも、ずっと俺はみさの兄で、みさは俺の大事な妹だ!」
「お兄ちゃんっ!大好きっ!」
と、みさは兄に抱きつく。
「お、おいっ。だから…っ。
ふっ。たくっ、しょうがないな。」
兄は困ったような表情をしながらも、嬉しそうだ。
(ちゃんと、兄として笑顔で送ってやらなきゃな…)
「お兄ちゃん、私、悠さんと絶対幸せになるね!」
「おう!それを俺も願ってる。絶対に幸せになれよ!」
(悲しい顔を見せるなよ。俺の決心が揺らがないように、ちゃんと幸せになってくれ。)
兄と話した後、父と母に
「部屋の前で、父さんとお兄ちゃんが話してるの聞いちゃったの。お兄ちゃんと今まで話してたんだ。お兄ちゃんが知ってる事は話してくれたよ。」
と、さっきまで兄と話した内容を両親に話す。
(お兄ちゃんが好きって言った話は止めておこう…)
両親はみさの話を黙って聞き、
ゆっくりと話をしだした。
「みさ、悪かった。明日、お前が家を出る前にちゃんと話はするつもりだった。
こんな形で知らせることになってすまん。」
と、父。
母は涙を浮かべ、
「こんなことになって、傷ついたわよね。
ごめんね……もっと、早く言えば良かったわね。
……みさ、こっちおいで。」
と、母はぎゅっと抱き締めてくれた。
「お父さん、お母さん、血の繋がりの無い私をこれまで、沢山の愛情をかけて育ててくれて…本当にありがとう…
お父さんとお母さんの子で…この家に来れて本当に幸せでした。」
「みさ、ありがとう。私達もみさと過ごした日々は掛け替えの無い日々だったわよ。
幾つもの幸せをあなたは与えてくれた。
血は繋がってなくても、私達はみさの親だし、ここはあなたの家。これからもずっと、何時でも帰っておいで。」
と、母。
父は、
「悠くんと幸せになりなさい。
けれど、何があってもわしらは、みさの味方だからな。何時でも帰って来ると良い。」
私は、母と泣きながら抱き合った。
それから、みさがこの家に来た時の事を話してくれた。
ある日の夜、家の玄関の前に籠が置いてあった。中を見ると、おくるみに巻かれていた可愛らしい赤ちゃんが入っていた。誕生日らしき日付と、"M"の文字。
名前はMから始まる名前が良いだろうと、両親が"みさ"と名付けてくれた。それから養子として迎え、
本当の娘の様に育ててくれた。
(私はなんて幸せなんだろう…色々言われてきたことも、今なら全部、私の為だったって事が分かる。
結婚も家の為…というより、私の為だったんだ。私が結婚しても不自由しないように…
大好きな家族に感謝しなきゃ…)
それから、兄も加わって、いっぱい話した。
明後日には家を出るみさの為に、結婚前に思い出を作ろうと、父が提案し、急遽今日から旅行をすることにした。
明日も、家族の思い出の場所に出来る限り行こうとしてくれている。
兄も本当は夜に予定があったが、キャンセルし一緒に来てくれた。
2日間、家族と目一杯過ごし、結婚の日を迎えた…