お見合い~結婚に向けて~
表向きは平静を装っているが、みさの頭の中はパニックになっていた。それからお見合いは順調に進み、色々話しはしたが、話の内容はほぼ頭に入って来なかった。
暫く経ったところで、柊社長に付いてきていた副社長(本来のお見合い相手だった)に、
「二人きりで話をしてみてはどうでしょう。」
と言われ、
「そうだな。みささん、行きましょう。ここの庭園は綺麗なんです。少し散歩しませんか?」
「………」
シリウスに誘われるが、みさはまだ、ぼーっとしていた。
「みささん?」
という、シリウスの言葉にはっとし、
「はい。よろしくお願いします…」
と、皆の居る部屋から2人で出ていった。
2人になったところで、シリウスが
「みさ、驚いたろう?君をびっくりさせたくって。」
シリウスはニコニコとみさに話しかける。
「………」
みさは黙ったままだ。
「みさ、どうしたんだ?お見合いの席でもあまり話さないで。」
「……シリウスさん、酷いです。私がこの数日どんな気持ちだったか、考えた事ありますか?どれだけ不安で堪らなかったか。縁談の件は大丈夫…って、こういうことだったんですか?言ってくれてても良かったじゃないですか!!」
みさは、怒っている。シリウスが何も言わないでいた間、いっぱい悩んで、今日までどうしたら良いかと心配で堪らなかったからだ。
「ごめん……みさ…そんなに怒らないでくれ。
実は、こうなったのは偶然なんだ。君とこの前出会った時、見合いの相手は俺じゃなかった。」
「……どういうことですか?」
「実は……みさが縁談の話をお義父さんから聞く時、猫が居たろう?あれは俺の会社の副社長の"橘"で、アルダバラでの俺の側近、フェリスなんだ。」
「???」
みさは訳が分からない。
「フェリスは猫に変身出来る能力があるんだ。それで、みさの縁談の相手を知る為に、君の家にフェリスを忍び込ませた。その時分かったのが、みさの縁談の相手がフェリス(副社長)だということだ。だから……」
シリウスはかなり焦っていた。これでみさに嫌われてはどうしようもない。
(そういえば、急に縁談の相手が副社長から社長に変わったっけ。)
「では、"偶然"お見合い相手がシリウスさんの会社の副社長さんで、社長の貴方とお見合い相手を変わったと。」
まだ、少し怒りながら話している。
「そ、そうなんだ。お見合い相手が誰でも、今日の縁談を壊しに行く気ではいたんだ。けれど偶然、みさの相手がフェリスだって分かって…
俺が一目惚れしたから、お見合い相手を変えてくれって頼んだんだ……
本当にごめん!」
シリウスは、とにかく許して貰おうと必死だ。
「そうだったんですか。それでも、それとなく解るように伝えてくれたって…」
はぁ……と溜め息。
「本当にごめん。みさの気持ちも考えず…ただ、驚かせたかったんだ。喜んでくれるかなって思って…」
シリウスはまた、子犬のようにシュンとなっている。
「そうなんですね。
けれど、私は先に知りたかったです。
ずっと、どうやって断ろう…断ったら家の為に何か悪いことがとか、色々考えて……」
と、言った所で、ふっ…と力が抜けて、座り込んでしまった。
シリウスはみさを抱き抱え、
「みさ…ごめん。こんなに心配させて。
言うべきだったな。本当にごめん…」
「…ふふっ。」
「みさ?」
「何だかシリウスさん、謝ってばかりですね。もう分かりましたよ。私こそ、怒ってごめんなさい。何だか、シリウスさんだって分かって力が抜けちゃいました。」
「ありがとう。みさ。」
シリウスはミサを抱きしめる。
「シリウスさんっ。恥ずかしいです。」
「もう少しだけ。このままで居させてくれ。」
「はい…」
みさは恥ずかしかったが嬉しかった。お見合いの相手がシリウスだったのにもほっとしていた。
「あ。みさ、俺を呼ぶ時な、2人の時は良いけど…」
「分かってますよ。"悠"さん。」
「"悠さん"って呼ばるの何だか照れるな。」
2人の間に穏やかな時間が流れていた。
「それとね…み、みさ。あの…これを。」
シリウスはスーツのポケットから指輪を取り出し、コホンと咳払いし、
「改めて言う。みさ、結婚してくれ。」
「はい。喜んで。」
みさは笑顔で答え、シリウスはみさの薬指に指輪を嵌めた。指輪はみさの指にピッタリだ。
「シリウスさん、指輪のサイズ…」
みさは、どうしてピッタリなのか不思議だった。指輪のサイズを聞かれてはないからだ。
「この間、ブティックで服の採寸をしている時があっただろう?その時、みさに気付かれないように、この日の為に指輪のサイズを測ってもらってたんだ。」
シリウスは照れながら言った。
「ありがとう。シリウス…悠さん、大好きっ!」
みさは思わずシリウスに抱きついた。
「み、みさ。恥ずかしいって言ってたのに。」
「つ、つい…」
「照れてるみさも可愛いな。あ!そうだ。みさ、こっち。」
と、シリウスはみさの手を引き柱の陰に隠れた。
「え?悠さん、どうしたんですか?」
シリウスは優しく微笑み、
「みさ、愛してる。絶対に幸せにするからな。」
シリウスはみさを抱きよせ、
「顔、上げて?」
と、シリウスはみさに優しく口づけをした。
「あ…っ。」
(し、シリウスさんっ。ダメっ、何も考えられない…でも、凄く幸せ…)
みさは驚いて声が出ない。
そんなみさを愛おしそうに見詰め、頭を撫で、
「皆のところに戻ろうか。」
と優しく声を掛ける。
「はい。」
みさは何とか返事をして、暑くなった頬を冷ますのに必死だった。2人は皆の待つ部屋に手を繋いで戻り、シリウスは父の前に行き、
「お義父様、娘さんと結婚させて下さい。」
と頭を下げた。
「と、いうことは…上手く行ったんだな。ああ。良かった。本当に良かった。悠くん、娘の事をよろしく頼む。みさ、良かったな。」
父はもの凄く嬉しそうだ。
「はい。お父さん。」
「この全てを捧げて、生涯愛し続けます。」
シリウスはずっと頭を下げたままだ。
(社長であり、皇太子であるシリウスさんがこんなに頭を下げることがあるのかな。それだけ、真剣に考えてくれているってことだよね。)
「頭を上げてくれ。悠君、ありがとう。」
と父。
「悠さん、娘をよろしくお願いします。」
母も続いた。
「悠さん、妹の事、よろしくお願いします。」
兄は少し不思議そうな顔をしながらもそう言った。
(お兄ちゃんには好きな人がいるって言ってたもんね…後でちゃんと説明しなきゃ。)
「みさ、幸せになろうな。」
と、また皆の前で抱き締める。
「し、ゆ、悠さんっ!恥ずかしいですよ~っ」
言いながらもみさは幸せな気持ちでいっぱいだった。
(このまま、ずっとこの幸せが続けば良いのに…)
そう願っていた…