兄の気持ち~お見合い当日~
暫くすると、
"コンコン"
「はい。」
「みさ、俺だよ。」
「お兄ちゃん?」
みさはベッドに座り直し、返事をする。
兄が少し心配そうな顔をしながら、部屋に入って来た。
「みさ、大丈夫か?さっきは父さんと一緒に騒いでしまってゴメンな。」
「お兄ちゃん…」
「俺、本当はみさをまだ結婚させたくない。
だけど、今回の縁談は本当に良いと思う。
きっと、あれ以上の人はなかなか出て来ないと思うし。後は、みさを大事にしてくれるか、それが心配なんだけどな。」
お兄ちゃんがこんなこと言うなんて。
でも、考えてくれてたの嬉しいな。
「お兄ちゃん、ありがとう。お兄ちゃんがこんな風に言ってくれるなんて思ってなかった。お兄ちゃんは父さんの味方だと思ってたし…」
「俺は、いつでもみさの味方だよ。大事な妹なんだし、当たり前だよ。みさには幸せになって欲しい。いつもは照れ臭くてなかなか言えないけどな。」
兄は頭をかき、照れながら答える。
「お兄ちゃん…」
何だかつられて照れてしまう。
「そういえばさっき、あれ以上の人はって言ってたけど、私にお見合いの話来たの今回が初めてだよ?」
「お見合いの話な、実は、今までお見合いの話が来る度、父さんにみさにはまだ早いからって言ってたんだ。」
「そうだったの!?」
「10代で結婚なんて、嫌だろう?でも、今回はもう二十歳なんだし、断らないって言われたよ。」
(こんなに心配してくれるお兄ちゃんになら、好きな人がいるって言っても大丈夫、かな。)
「お兄ちゃん、実はね、私、好きな人が居るの。でも、お見合いの話があって言い出せなかったんだ。お見合い、上手く断れないかな。」
「えっ!?」
兄は驚いて固まった。
「そんなに驚かなくても。これまでも、彼氏が居た事はあったんだから。まぁ、どの人も長続きはしなかったけど。」
―くどいようだが、みさが彼氏と続かなかったのは兄のせいである。みさの相手を徹底的に調べ上げ、みさに似合わないと思ったら別れるよう仕向けていた。みさが、誰かと付き合う時はいつも分かっていた。―
「全然気付かなかったよ。その…人とは長いのか?」
(みさ、いつの間に相手なんて居たんだ…?俺の気付かない間に会っていたなんて…一体どんな奴なんだ?)
「初めて会ったのは子供の時だよ。ずっと気になってて、忘れたことはなかったの。でも、もう会うこともないって思ってて…
それが、最近会うことが出来て。一緒に遊びに行ったりしたの。私の事をずっと探してくれてたみたいで。それでね、告白されたの。結婚を前提にって。相手も同じ気持ちだったんだって思ったら嬉しくって。けど…告白されたより先にお見合いの話が来たから、まだちゃんと返事出来てないんだ。」
「……?
先に、お見合いの話って。本当に最近じゃないか?見合い話から3日も経ってないぞ?本当に大丈夫なのか?騙されてないか?」
(まぁ、お兄ちゃんが心配になるのも無理はないよね。でも…)
「お兄ちゃん、私も最初は半信半疑だったよ。でも、暫く一緒に居て思ったの。この人は間違いなく想ってた人だって。それにね、返事も急かす事もなく、いつまでも待ってるから良く考えてみてね。って言ってくれてるし大丈夫だよ。
後、お見合いには出るよ。気は進まないけど、ちゃんと、断ろうと思う。」
「そう…か。みさがそう言うなら。まぁ、もし、何かあったら言えよ?」
(これはまた、調査の必要が…?
否、お見合いが終わるまでとりあえずは待つか。みさが小さい頃?そんなに昔から、そんな相手居たか??)
兄は、悶々と悩んでいる。
「ありがとう。」
兄が部屋から出ていき、またベッドに横になる。
「シリウスさん。ちゃんとお見合い断るからね…」
ぎゅっと枕を抱きしめ、シリウスとの出来事を思い出していた。
*****
―お見合い当日―
ここ数日、ずっと気が重かった。
お見合いは今日の正午から。
朝から父に言われるがまま、あたらしい服に身を包み、今、行き付けの美容院で髪をセットして貰っている。
「今日、お見合いなんですってね~。お父様に聞きましたよ。相手はあの有名な柊社長とか。この間テレビに出ている姿を拝見しましたが、若くして社長であるのも凄いですが、加えてイケメンっっ。良いですね~。羨ましいですっ。」
ね~っ。と、スタッフの人達はきゃあきゃあと騒いでいるが、みさは
「そうですね~。」
と答えるだけ。噂では凄い人、イケメンと皆が騒いでいるが、みさはテレビ等でもお見合い相手の柊社長を見たことがない。
(テレビでも見ておけば良かったな…ホントにどんな人なんだろう。優しい人だと良いな。断っても怒らない人…なんて。)
本当は見る機会もあったが、何だか恐くて見れなかった。父にも兄にも薦められたが、渋っている内に当日になってしまった。
(もう何言っても遅いし、無駄、だよね。行くしかない。)
「できましたよ~。素敵です。」
スタッフの方に言われ、セットされた髪を鏡で見る。
(真っ直ぐなストレートのサラサラヘアー…お嬢様って感じ。服は深いブルーのワンピース。悪くは無いけれど……
この間、シリウスさんがしてくれたクルクルのお姫様みたいな髪も良かったな。ドレスは淡いオレンジで。なんて…)
お見合いの時間が迫る。髪をセットして店を出ると、迎えが来ていた。父が運転し、母も兄も乗っている。
「お父さん、お待たせしました。」
「うん。良く似合っている。今日の見合いにもピッタリだ。」
父はみさの姿を見て、満足そうだ。
「うん…可愛いよ、みさ。」
そう言いながら、兄はまだ心配そうな顔をしている。
「ありがとう、お兄ちゃん。もう大丈夫だから心配しないでね。」
みさは、にこっと微笑んだ。
「ん?何かあったのか?」
父は不思議そうな顔をしている。
(お兄ちゃんたら…あんな顔したら、父さん気にしちゃうじゃない。私も…もう大丈夫とか言っちゃったけど)
「父さん、何もないです。」
みさはそう答えると、車に乗った。道中もずっと、シリウスの事を考えていた。
(シリウスさん、今日、ちゃんと断るからね。
頑張るよ。次はいつ会えるかな…)
「着いたぞ。失礼の無いようにな。」
「はい。」
日本庭園が広がる料亭に到着した。
相手側が用意(予約)したとの事だった。
「柊様ですね。お待ちしておりました。ご案内致します。」
女将さんに案内され、部屋の前に来た。
「失礼致します。」
部屋の戸が開くと、奥に2人の男性が。
(緊張して顔が上げれないっ)
ドキドキしながら、お見合い相手である男性の前へ行き、
「初めまして、姫川みさです。本日はよろしくお願い致します。」
と、顔を上げた途端、固まった。
"シリウス"が目の前に座っていたからだ。
シリウスは、固まったみさを見て、笑いを堪えながら平静を装い、
「初めまして。みささん、柊商事、代表取締役社長の柊 悠です。
本日は来てくれてありがとう。貴女と会えて嬉しいです。お義父様、この度は、うちの橘との縁談の話を勝手に変えてしまい申し訳ありません。
ありがとうございます。」
「い、いえ、みさには勿体ない限りで…こんなに、光栄な事はございません。」
父も、社長を前にしてかなり緊張しているようだ。シリウスはニコニコしながら、みさを見詰めている。
(え~っ!?どういうこと??何で目の前にシリウスが居るの??シリウスって、アルダバラの皇太子じゃ…社長なの~??)