このプロポーズが分かりずらかったのも、それでも最後には伝わったのも、お味噌汁だったからです
物事は、ハッキリ言わないと案外伝わらないものです。
ここに付き合って二年ほど経ったカップルがいます。彼らがいい例です。
~とある日のデートの帰り道~
「なあ、俺たち付き合ってもう二年経つだろ」
「そうね、あっという間に過ぎてしまったわね」
緊張する男とマイペースな女。ここまでは特に問題は無いように見えました。
「その、だな。そろそろ良い頃合いだと思うんだ。一緒に(歩んで)行きたいと思ってる」
「良い頃合い?」
(そろそろ? 何かしら。私の誕生日はひと月前に終わったし、クリスマスはまだ4カ月以上先だし……行きたい? あっ、クリスマスに一緒に行きたいお店を予約する頃合いって事なのね)
緊張しすぎた男の言葉足らずが、女に勘違いをさせたのでした。
「もう少し待って欲しいわ。まだ(予定を)決めきれないの。ごめんなさい」
「えっ、決めきれない……そっか、いや、少し急過ぎたか。良く考えて貰って構わない。例え何年でも待つよ」
(そんなに人気のお店を予約してくれようとしてたのね)
「無理をしなくてもいいのに。私がそう言う事を期待するタイプじゃないのは知ってるでしょ」
「えっ、そう……だっけ」
(ど、どう言う事だ。期待していない、俺との結婚を……まじか)
「そうよ。何度も言って来たじゃない」
(ファミレスや大衆居酒屋じゃなければ気にしないって知ってるでしょ)
その日は微妙な空気のまま家路につく二人だった。
そして女は数日後に男へクリスマスデートの都合の良い日時を伝えたのでした。その間男は女の友達などに探りを入れてもらい女に結婚願望がある事は突き止めていました。ですから、その日に再度勝負を掛ける事にしたのでした。
~クリスマスデートの帰り道~
「これから一生、俺のお味噌汁を作ってくれないか」
男の渾身のプロポーズは伝わりにくい言葉のチョイスでしたが、普通ならば伝わった筈でした。そう、彼女の実家の家業が味噌づくり関連でなければです。
(一生? 彼は今27歳だから、90歳までと仮定して63年間、約2万3千日分で朝晩二食とすると4万6千食ね。原価は一食当たり30円として、売値で一食50円)
「大体、230万円位になるわ」
「はっ?」
男は困惑しました。
(あれ、高かった? そうよね。一生って事はそのうち結婚するかもしれないものね。身内割引を入れて……えっ)
ここで、漸く女が男の言葉の意味に気付き、喜色満面の笑顔を浮かべたのでした。