前章 1つの終わり
人々の行き交う雑踏の中、目的もなく歩き続ける。
一体、どこで道を間違えたのだろうか。
妹が病で亡くなった時だろうか。それとも、自分の名に恥じないように、自分の正しいと思った事をやると覚悟を決めた時だろうか。
救えた物は数少なく、救えなかった、悪い結果を逆に引き寄せてしまった事が多かった。挙げ句の果てには先程の出来事だ。
『あなたなんて生まなければ良かった・・・・・・』
俺に凶刃を向けた母の泣き顔。
『お前は悪くない、悪いのは私達だ』
その凶刃を、身をもって阻んで、俺に謝罪する父の申し訳なさそうな表情。
母に生んだ事を否定され、父に最愛の人を殺させてしまった。この事実は紛れもなく、俺自身が行って来た行動の報いなのだろう。
正しい事がしたかった、誰かを助けたかった。世界を救うヒーローになんかなれなくていい。ただ、自分の周りの人達を助ける、手を伸ばしてあげられる、そんな人間になりたかった。
今はもはや叶わぬ夢。
これまで自分の生きてきた人生を振り返りながら歩き続ける。
人を避ける気力も無く、行き交う人々と手や肩だけで無く、足までぶつかり何度も転び、手を地面へと付ける。周りからの視線は、転んだ人間を心配するものはなく、「トロいんだよ」と言われているかのような、蔑みの視線だけだった。
当て所なく歩き続け、交差点へとさしかかる。歩行者信号の青が点滅しているのが見えて、思わず立ち止まる。人間無気力な状態でも、身についたルールを守る習慣は変わらないらしい。
目の前の道路で車の往来が始まる。ぼーっとしつつも歩行者信号を見続け、信号が赤から青へと変わるのを静かに待つ。
そんな時、ドンッと音がした。その音は俺の隣でいきなり起きたが、条件反射か何かで俺はそちらへと顔を向けた。
そこには、学生服を着た女子高生らしき少女が2人いた。
前後に並んだ少女達、後ろの少女は手の平を開いた状態で両手を前に突き出し、前の少女はその両手で突き出されるがまま、道路へとその身を乗り出している。後ろの少女は、歯を食いしばり、血走った目で射殺さんばかりに前の少女に視線を向ける。前の少女と言えば、自分に何が起きたのかも分からず、突き飛ばされた勢いのまま、目の前の交差点を通り抜けようとしていた車の目の前に踊り出す。
それらを見ていた上で、俺は歩行者信号で足を止めるのとは違い、明確な意思を持って足を前に出す。自分でも驚く位スムーズに動いた身体は、目の前の少女を庇うために抱きしめ、己の背中を車へと向け、死ぬのを承知で自身の身体を車との衝突による衝撃から少女を守る為のクッション代わりとする。
次の瞬間、ゴンッと衝撃音がして、自分と少女の肉体が中へと舞う。個人的には跳ね上げられた様に感じたが、浮遊感が短かった当たりそこまで空中にいた訳ではないのだろう。
地面へと着地、ではなく衝突した時には、グシャッと言うような音がした。身体には痛みを通り越して熱を感じる。ただ、血が流れ出ているからか貧血の様な症状も感じていた。
まぶたを上げて周りの状況を確認しようとするが、頭からの出血で目に血が入ってしまい、現状周りがどうなっているのか確認出来ない。少女は助かったのか否か、知りたい内容を仕方なしに耳からの情報で集めようとする。
聞こえてくるのは悲鳴や慌てている声、110番や119番をしたのだろうか、大丈夫かと呼びかける声もする。俺は良いから女の子をと言いたかったが、血が足りないからか、口もろくに動かす事が出来ない。
時折「離して」と言った声が聞こえるが、これは後ろから少女を突き飛ばした犯人の物だろうか。
あの時、犯人の少女は「お前が悪いんだ」と言っていた。「お前が彼をたぶらかした」からだとも。あの少女達は三角関係だったのだろうか。この後も生きる事が出来るのであれば、その問題を解決する為に動くこともやぶさかではなかっただろう。
だが、おそらく俺の死は確定的だ。今も止まらない血と薄れゆく意識がその証拠だ。
順風満帆な人生ではなかったが、最後の最後にあの少女を助ける事が出来たのであれば、「終わり良ければ全て良し」となるのだろう。
そうして、俺「早川善」の一生が幕を閉じた。
前章 読んで頂きありがとうございます。
私、八咫烏の初投稿作品です。
あらすじにも記載していますが、不定期更新です。
もしも、続きが気になるという方は、次回更新をお待ち頂けると助かります。