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ピーターピーター  作者: タイニ・リー
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問題は次々訪れる





さて、整理しよう。




俺の名前は近藤健司。高2。この前サッカー部を辞めてゲーム三昧だ。


母は出張で少しの間海外研修。父は子供の時に死んでしまった。時々両親のじいちゃんばあちゃんたちが家を見に来たり飯をおごってくれたりするが、大体は一人。叔父さん叔母さんたちも時々来る。母さんにバレるとうるさいから、いない間に退部したのだ。



そしてリビングのソファーでココアをおいしそうに飲んでいる、向かいに座るこいつ。


ピーター・パン…ではなく

『ピーター・ラン』と名乗る少女。その周りで時々キラキラうっとおしく光を散らす、小人こと自称妖精は「ティンカー・リン」。少女の方は年齢不明。忘れたそうだ。

2人して空から落ちてきた上に帰れないらしい。



は?!なんだ、このまがい物感。



俺は自分用に注いだ麦茶をすすりながら、人生で三番目に途方に暮れている。



「え~?こんな一軒家で一人なら、少し置いてくれてもいいじゃないですか~。」


絶対に嫌だ。きょう日高校生男子だって捕まることがちょくちょくニュースになるのに、なぜ自ら知らない子供を家に置かなければならないのか。


「警察に行くか、役所にでも行ってよ。どうにかしてくれる。」

「戸籍もこの国の国籍もないから、扱いに困ると思いま~す!」

「それなりにどうにかしてくれる。何も知りませんでいい。下手にどこかの国から来たとかいうより、何も知らずに生きてきたと言うんだ。服も買ってきてやるから。普通の服に着替えるんだ…。妖精は隠れてろ。」


俺はテキトウに言っておく。どうやらこの少女。戸籍とか国籍とか警察とかその存在は分かっているらしい。…まあ、俺も戸籍とかは見たことないけれど、日本人であり、どこの家族の者か証明するものだろう。


「え~。物語とかって、普通正体不明の存在が現れたらその後家族ぐるみで同居するんだよー。」


とぼけた顔して、日本のマンガかアニメのようなことを言いすがってくる。いや、マンガじゃないし。マンガっぽいけれど。



「また飛べるようになるまででいいんです~。」

こちらを見て、かわいくない顔をしてうるうる攻撃をしてくる。変顔にしか見えないが、かわいいと思っているのか。

「この家、食べ物もあるし、ココアもあるし、エアコンも効いてるし、いろいろ便利快適だし~」

電気も水道もない森で生きてそうなのに結構現金だ。


「そういう時代じゃないから。家出の子供を個人でかくまってたら犯罪扱いだから。しかも男一人だし。」

一蹴する俺に顔をしかめて、スーとまた浮いた。しかもひどい悪態をついている。

「ケチンボ!あほ!心が狭い!」


「ケンジ!あなたは心が狭いです!」

変な妖精にまで言われる。



「そもそも飛べなくなったのはケンジのせーじゃん!」



は?心外な。


なぜか飛べなくなったのは俺のせいになっている。



「ふん!じゃあ野宿しかないじゃん!」

「え?女子供が野宿なんてするなよ。」

「ほら!だったら泊めてよ。なんか他にも部屋あるし。」

目ざといな。だがそんなのは関係ない。

「いいよ。野宿しろよ。見送って野宿先で通報しておくけれど。どっちにしろ警察だな。」

しつこく言っても伝わらないこのもどかしさ。家にいるのはだめだけれど、女子供に野宿なんてさせられるわけない。母さんの部屋か和室に入れて、朝出て行ってもらうか。明日は土曜日。自転車に乗せて戻ってこられないように隣の市の警察にでも連れていくのはどうか。電車で行くと、あちこちの防犯カメラにいろいろ残って何かあった時に尋問されるかもしれない。


そもそも鏡やカメラに映るのか?…もしかして俺にしか見えないとか?リビングの大型テレビではよく確認ができないが、消えている黒い画面に赤毛の少女は映っている。


「ちょっとごめん。確認」

俺はスマホのカメラを向け一枚撮った。どんぐり眼でこちらを見る。


確認すると赤毛コスプレ少女が写っている。写真には残るのか。ただし、ハリウッドのファンタジー映画並みにしっくりくる感じだ。ピーター・パンのまがい物なのに、まがい物感がない。妖精の方は光として写りで実体は見えない。…なんだ興味深いな。これは何現象というんだ。妖精は霊体か?じゃあ少女の方は何なんだ。


「へー?これカメラなんだ!電話でカメラ!しかもきれいなちっちゃいテレビ画面まである!私かわいー!未来のカメラみたい!マンガみたい!」

お前がマンガみたいだろと、心の中でつっこむ。ただし言わない。かまうと喜びそうだからだ。

「もっと撮れる?教えて!貸して。」

「触るな!カメラにも俺にも触るな!」

「えー。勝手に撮っておいてそれはないよ。モデル代として!」

ホントやめてくれ。駆け引きしたり、お金を払って少女の写真を撮る趣味はない。とにかく俺を開放してくれ。先週地元の警察が学校に来て、犯罪認識、防止授業をしていったばかりなので敏感になる。近隣の高校生同士の犯罪、暴行事件が数件あり、今年は地元警察が本腰を入れ各小中高学校で特別授業をしている。

「ダメだっつーの!。」

「けちけちー。」


もどきがクッションを抱いたまま、ふわーと浮いた。しかもひどい悪態をついている。

「けーち!けーち!けちんぼ!家にも置いてくれないし、カメラも貸してくれないし!」


そしてクッションをソファーに投げつける。俺の頭上を回りながら妖精と一緒に本格的なケチケチコールが始まった。頭に来ることこの上ない。


どうするか悩んでいると玄関のベルが鳴った。




ピンポーーーン。




誰か来たらしい。この時間に連絡もなく来るのは祖父母たちか近所の幼馴染家族だ。


さらに混乱が増えて眉間を抑えて悩む。おっさんみたいだ。


ピンポーーーン。


インターホンに出るか。


いや、無視。

無視だ、無視!正体不明の少女がいる上に、子供がぷかぷか浮いているこの状況を何と説明するのだ。



ピンポーーーン。

ピンポーーーン。


やけにしつこい。いくら人がいる感じがするとはいえ、ここまで出ないならトイレに籠っているとかシャワー中だとか思わないのだろうか。じーちゃんたちなら合鍵を持っている。めんどくさい幼馴染だ。この前エアコンも扇風機も一階の電気も付けたまま転寝したから心配されているのか。



案の定。スマホも鳴る。チラッと見るとやはり幼馴染。

無視、無視…。


俺が一人でこのどうしようもなさに耐えていると、もどきが言う。

「玄関こっちだよね!お客様だよーー!」


うお!勝手に玄関に向かっている。


「やめろ!行くな!出るな!」

空飛ぶ奴らにはかなわない。すごいスピードで飛んでいく。


「わーい!グッナイト!いらっしゃいませー!」

オートロックだから内側に鍵はない。もどきが勢いよくドアを開けた。やめろ。



「!」


買い物袋を持ったストレートボブの同級生が驚きで固まった。久美だ。


「女性?ウェルカムおねーさん!」


「え?」

「わーい!ケンジよりやさしそう!」

「へ?え??誰??」


「ピーターだよ!」

ニコニコ顔で答える。


声を出せない久美と目が合う。


あー!もどき!浮くな!浮いているぞ!久美から目を逸らす。まだ気づいていないようだ。なんて説明するんだ。


「あの?どちら様ですか?親戚?友達?」

そんな親戚友達いるわけない。赤毛のツインテールの三つ編みだぞ。どこの国だ。


そして極めつけ。もどきの頭の後ろから妖精がひょこっと顔を出した。

「ひい!」


久美がのけぞる。妖精も驚いてシュッと飛び出し、七色も混じった金粉をまき散らした。


「ひいいい!」

驚いて袋を落とす久美に俺も驚く。


「ティンク!落ち着いて!」

もどきが宥めるがくるくる飛び回る。

「ひゃあああ!」


久美の怯えに心の底からため息をついた。はあ、カオスだ。



「…とりあえず家に入って。近所迷惑だから。」




仕方なくリビングに久美を通した。




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