第1話:「始まりの日」
春……穏やかな日差しがゆっくりと照りつけて、ドコからともなく眠気がやってきて、いたずらにまぶたを少しずつおろし始める……そんな季節だ
春……それは多くの者が立つスタートラインの季節
今ここに、そのスタートラインに立とうとしている人がいた
ここはどこにでもある小さな町のどこにでもある普通の高校である
只今、高校の合格発表の真っ最中であった
自分の番号を見つけて大はしゃぎする人もいれば、自分の名前を見つけれなくて泣きじゃくる人もいた
「う〜〜、あんなにたくさんの人がいる」
と受験生達から約50メートル離れた所で受験生達を見ている女の子が一人いた
名前は杉宮あおい(すぎみや あおい)、この学校の受験生だ
「あたしも早く見に行かなきゃ」
そう言ってあおいは足を一歩前に進めた……が
「やっぱり…無理」
そう言ってあおいは進めた足を元に戻す
かれこれ30分、この行動を繰り返している
「ここから結果が見えればいいのに……」
そう言って、あおいは目一杯背伸びをしてみた
「へぇ〜〜、あおいちゃんはここから結果を見ようとするぐらい目が良かったんだね〜」
「はわっつ!!」
おそらく自分でも聞いたことないような声を出したことからかあおいは顔を赤くして、声の主の方を見た
「千歳ちゃん!!」
あおいの目に入った声の主は東堂 千歳、あおいの昔からの友人である
「あんた、ここで何やってんの?」
「えっ、それは……」
「あんた、昨日自分が言ったこと忘れたとは言わせないわよ」
千歳が一歩一歩近づいて来るのを、あおいは半泣きのような顔をして昨日のことを思い出した
話は昨日にさかのぼる
あおいと千歳は公園の自動販売機で飲み物を買っていた
「ええっ!自分一人で結果を見に行く!?」
千歳はあまりの驚きに持っていた缶コーヒーを落とした
「もう、千歳ちゃん
びっくりしすぎだよ」
「ごめんごめん、だってあおいが自分一人で何かするなんて聞いたことがなかったから」
と笑顔を見せて言う千歳は自動販売機の隣にあるベンチに座る
「なんでまた一人で行こうと思ったの……ってあんた何買ってんの?」
千歳はあおいが買った飲み物を指差して言った
飲み物には
「青じそたくあんチーズ味」と書いてあった
「あんた、それ…飲むの?」
「うん、美味しそうだったから」
そう言ってあおいはその得体の知れない飲み物を飲んだ
千歳は若干引き気味であおいを見つめるが、飲み終えたあおいは幸せそうな顔だった
「あ〜、美味しかった」
「そ、そう」
「えっと、何だっけ千歳ちゃん?」
「あっ、そうそう何でまた一人で行く気になったのかなと思って」
あおいは少し考えるような顔した後、夕日で赤くなった空を見ながら言った
「大して理由はないんだけど、いつも千歳ちゃんに頼ってばっかだから、明日はあたし一人で行こうか……」
「えらいぞあおい」
「ひゃわ!!」
あおいが奇声をあげた
それはあおいが言いきる前に千歳があおいに抱きついたからだ
「あのあおいが自分一人で入試の結果を見に行くだなんて……泣けてくるな〜」
「そんな大げさだよ」
「へぇ〜〜、先生に用があって、いざ先生の前までは行ったけど緊張して何も言えずにその場に倒れるあおいちゃんなのに」
千歳がからかうとあおいは顔を真っ赤にして
「えっ、それは……その」
「あっははっ、明日が楽しみだね〜」
「もう〜、千歳ちゃん!」
そんなほんわかな昨日のことだった
全てを思い出したあおいは顔をうつむかせてその場にかがみ込んだ
「やっぱり……無理だよ」
千歳はそんなあおいを見て、大きく空気を吸い込んで吐き出し
「しょうがないなぁ」
そう言って千歳はあおいに手を差しのべた
「あんたがこうなるのは予想はしてたけど、次からは期待してるよ」
「千歳ちゃん………うん……たぶん頑張る」
「はぁ!たぶん!?」
「ひゃつ!!………すいません……努力…します」
千歳の声にあおいは圧倒された
「よろしい、じゃあ行きますか?」
「うん」
さっきまで泣いていたあおいはどこにもいなく、ゆっくりと立ち上がって千歳について行くのであった