44回目 声に耳を傾け、それらの事情を知って、処分を続けていく
「なんでこんな……」
「俺が何をした……」
「やめろ、やめろ……」
「ふざけるな、この野郎……」
数を減らした顔面からの声。
それらはタクマに向けて発せられている。
顔面はタクマに目を向けている。
にらんでると言った方が良いか。
声もタクマに向けている。
他に告げるべき相手はいない。
巨人の顔面達は、全てタクマに向かって叫んでいる。
悲鳴を。
嗚咽を。
命乞いを。
苦痛への恨みを。
その全てに憎悪と恐怖があった。
張り付いていた顔面。
それはもともと人間だったのだろう。
どうしてそうなったのか?
攻撃の手を一旦止めたタクマは、気の力を使っていく。
顔面の意識に侵入していくために。
気の力が意識に作用していく。
自分と相手の意識を同調させ、気持ちや考えを読み取っていく。
タクマの頭に、巨人の顔面の記憶が流れ混んでくる。
複数の顔面の思考を同時に読み取っている。
普通なら混濁して何がなんだか分からなくなるだろう。
だが、拡大した思慮がそれらを次々に解析していく。
同時に複数の意思や思考を分別し、どれが誰のかをはっきりさせていく。
はっきりと分かったところで。
タクマは攻撃を再開した。
「……ぎゃあ!」
「うわあ!」
「やめろ、やめてくれ!」
「なんでこんな事するんだ!」
「あたしが何したっての?!」
悲鳴があがる。
だが、それらへの同情は一切ない。
顔面は、確かに元は人間だった。
それが化け物になり、ここに集まってきた。
そのうちの何匹かが集まって溶け合っていき、生きた沼を形成した。
更にその中に何匹かが入り、融合して巨人へとなっていった。
そこに化け物になった者達の意思はほとんどない。
しかし、そんな彼らの記憶は見ていて不快なものでしかなかった。
恒常的に誰かや何かへの不満を抱いていた。
それも特に原因や理由もなく。
ただただ自分の思い通りにいかずに文句を言う。
望んだ形にならない事に不満を抱く。
そんな思考や感情がタクマに飛び込んできた。
それらが不当な扱いによるものならば理解は出来ただろう。
理不尽な指示や対応への反発ならば当然だと思っただろう。
だが、そんなものは一切なかった。
理不尽な仕打ちをしてるのは、憤りを抱いてる彼ら自身なのだから。
不可解な指示を出して、出来ないといったものに怒鳴る。
無理な約束を結ばせて、それが守れないとなじる。
他人の行動に難癖はつけるが、そういう本人の態度は決して褒められたものではない。
相手の良いところではなく悪いところだけ見つけてケチをつける。
出してきた成果を認める事もなく、もっと上手くやれという。
…………化け物になってる者達は、そういう連中だった。
そんな思考が流れ込んできた。
読み取ったタクマは後悔した。
顔面になってる連中の思考を読み取ったことを。
そして、そんな顔面を再び叩き潰していった。
救う必要もあわれむ理由も無かったので。
(なるべくしてこうなったか……)
そんな思いしかなかった。
化け物らしい思考だと。
そんな連中が、あの瞬間に化け物になった。
そして、ここでこうなっている。
なぜ化け物になったのかは分からない。
だが、そうなるにふさわしい連中だとしか思えなかった。
むしろ、こうなって良かったとすら思える。
人間扱いをしなくて済むのだから。
本性にふさわしい姿になった────。
そう思えてならなかった。
むしろ、この姿の方がこの者達にはふさわしいだろうと。
その末路がこれである。
タクマはそんな彼らに容赦なく得物を振り下ろしていく。
容赦などない。
情けなどかけない。
このまま放置しておけば害をなす。
それもまた思考を読み取って理解した。
生かしておくわけにはいかない。
化け物の根源的な欲求。
それは破壊や暴虐であった。
何かを壊したい。
誰かを叩きのめしたい。
そんな思いが渦巻いていた。
その衝動に従って、破壊行動を行っている。
今もそれは変わらない。
巨人になってより凶悪になってるとすら言える。
何せ、融合した者達全員の思いが一緒くたになってるのだ。
暴虐への指向性も増幅・拡大されている。
そんなものが放たれたら、どれほどの災難をもたらすか。
(やるしかねえよなあ)
ここで留めねばならない。
他の場所で多くの問題が発生する前に。
この地点でこの化け物を留めておかねばならない。
この場で確実に。
残りの顔面に躊躇無く刃を打ち当てていく。
もとより化け物相手だ、躊躇いは無い。
相手の事情を知ったことで、更に鋭く打ち込んでいく。
化け物とはいえ、浮かんでるのは人間の顔。
どうしたって躊躇が生まれていた。
それも今はない。
例え人間の形をしていようと、元は人間であろうと。
その中身は化け物でしかない。
そんなものに振り向ける情けなど持ち合わせていない。
人であった時も問題を作り出していた連中だ。
そんな連中をのさばらせておく方が問題だとしか思えない。
巨人の顔が次々に潰れていく。
それに伴って巨人の能力も落ちていく。
足がちぎれて倒れ、腕も失ってのたうちまわる。
頭も半分以上を失い、胴体もところどころ崩壊している。
それでもまだ生きてるのは、化け物ならではといったところか。
だからタクマも容赦はしない。
「やめろ……」
「やだ……」
「死にたくない、死にたく……」
「なんで、なんで……」
悲鳴が上がっていく。
口の数が減った分だけ、一つ一つの声が聞きやすくなっている。
もちろんタクマが耳を傾ける事は無い。
この段階になると、巨人も既に形を留めてなかった。
人の形だったものは、いくつかの塊に分割され。
その塊にいくつもの顔がついている。
その塊の顔を次々に潰していく。
もうこうなれば、玉を使うまでもない。
動くことはないのだから。
せいぜい、顔についてる目や口が動いてる程度だ。
それが危害を加えてくるという事は無い。
耳障りな罵詈雑言を唱えて終わる。
鬱陶しいという意味では、精神に悪影響を与えてくるが。
それ以上のものにはならない。
それらを作業的に潰してまわり、巨人だったものを壊滅させる。
塊が一つずつ消え、最後にのこった顔面に一撃を加える。
「待て、待て────!」
手斧が顔面に食い込み、頭が粉砕される。
巨人だったものは、それで完全に消滅した。
全てが終わり、化け物が完全に消えていく。
最後の一欠片が消えて、玉が残る。
他の残骸を片付けていた時には何も出てこなかったのに。
「…………本当におかしな奴らだ」
玉は化け物を倒せば残るものだ。
だったら、いくつか分割された場合、その一つ一つを倒せば玉が出てきても良いと思うのだが。
どうやらそうではないらしい。
また、核になってる部分があり、そこに玉が存在するというわけでもないらしい。
今回の事で、最後に残った部分に残るのが判明した。
あまり大きな意味があるわけでもないだろうが。
化け物と玉の不可解さがよりいっそう際だった。
得られたのは、そんな感想くらいだ。
それでも一つ何かが分かった事を喜ぶべきかもしれないが。
「……本当になんなんだよ、こいつらは」
訳が分からないのは相変わらずだ。
ただ、悩んで考えてる場合でもない。
急いで対処しなくてはならない事が出来た。
「みんな、聞いてくれ」
念話を使って近くに居る仲間に話しかける。
「急がなくちゃならなくなった」




