40回目 そこからあらわれたもの
それは、地面に直接埋め込まれているようだった。
等間隔でうごめく物体が外縁部を形勢している。
いびつな円形を形作り、その中に濁った液体がたたえられていた。
「調べてみるから、近づくなよ」
そう言ってタクマは玉の力を使っていく。
感知の能力を増大して、それがなんであるのかを調べる。
拡大していく意識と感覚が、校庭の濁った沼のようなものをとらえる。
「…………おい」
思わず声を出す。
それは、とてつもなく歪つな何かだった。
おぞましい、という言葉ではとうてい追いつかない気持ちがこみ上げる。
目の前にある沼のようなもの。
それは生物だった。
動物や植物という分類は出来ないだろう。
だが、沼のようなそれは、確かに生物だった。
それを縁取る器のようになってる部分。
それが肉体だった。
うごめいてるのは、鼓動に合わせた動きだった。
頭脳や内蔵といった器官はみあたらない。
生きていくのに必要であるはずのものが一切ない。
しかし、間違いなく生きている。
生命がそこにはある。
それが分かるからこそ、不気味でしかなかった。
「最悪だ……」
自分達とは違う。
共通する部分がない。
それでいて、生命体という一点においては同じ。
そんな事実がおぞましさを感じさせた。
確かな事は一つ。
目の前にあるものとは決して相容れない。
沼のようなそれを調べて確信する。
それは、あってはならないものだと。
「────潰せ」
皆に伝わるよう、玉の力を使って仲間に伝える。
念話でやるべき事を告げていく。
「これを、こいつを潰せ。
急げ!」
言いながらタクマが駆け出す。
周りの者達は何がなんだか分からない。
だが、タクマの言ってることだからと従っていく。
それでも、飛びかかりながら目の前のものを調べていく。
調べてすぐに理解する。
目の前のものがなんであるのかを。
それが今、何をしようとしてるのかを。
「急げ!」
タクマの声が更にありあがる。
「やるんだ、急いで!」
目の前にあるものを叩き潰す。
消滅させる。
そうしなければ、何かが起こる。
それが何であるのかは分からない。
だが、目の前の沼のような何かは動いてる。
気がどんどん高まっていっている。
動いて何かをしようとしている。
それが何をあらわすのかは分からない。
分からないが、決して良くは無い何かが出てきそうな気がした。
それを察知した者達は、次々に沼の外縁部に攻撃を加えていく。
気で強化された得物は、次々に損傷を与えていく。
タクマも斬りつけていく。
手斧と鉈で。
目の前の化け物が相手では、それはあまりにも小さい。
しかし、気にする事無く無骨な刃を叩き込んでいく。
気で強化されたそれは、分厚い外縁部の表皮を切りさく。
その向こうから、どろりとした液体があふれてくる。
濁って入るが赤いそれは、まぎれもなく血液だった。
血が流れる度に沼のような何かの気は消耗していく。
生命が途切れていってる証だ。
続けていけば、確実に目の前の沼を仕留める事が出来る。
そう信じてタクマは、沼の縁の部分を斬りつけ続けていった。
他の者もそれに続く。
このままそれを生かしておいたら大変な事になる。
そんな予感を感じながら。
タクマ達の行動は、半分は成功した。
攻撃し続けていく事で、沼の命は確かに削られていく。
鼓動の動きも弱くなっていく。
その果てに沼は潰えていった。
傷口からあふれる血は、とめどなく流れ続け。
沼は死んでいった。
だが、沼は最後に己の役目を全うした。
傷つけられながらも行っていたそれを。
称えた淀んだ水の中からそれを呼び出す事で。
それは濁った水の中からあらわれた。
頭を出し、腕をのばし、縁を掴む。
体を沼の中から引きだす為に腕で踏ん張る。
そして最後に足を校庭にのせていく。
命が尽きる瞬間に沼が呼び出したもの。
それは、タクマ達の前でしっかりと立ち上がってその姿をあらわした。
すぐそこにある、四階建ての校舎よりも高い体を。




