4回目 阿鼻叫喚なこの惨状
突如、人が化け物になった。
それは一カ所だけで起こってる事件では無い。
複数の場所で同時多発で発生していた。
それを帰宅するまでのさほど長くも無い道のりで実感する。
比較的交通量の多い場所である。
出勤のための乗用車が結構走ってる。
バスやトラックも通ってる。
そういった車のいくつかが事故を起こしていた。
運転手が化け物に変化したせいで。
そこかしこの家で物音や悲鳴があがっていく。
確かめたわけではないが、何が起こってるのかは簡単に想像出来た。
化け物になったものが暴れてるのだろう。
同居してる者達がどうなったのかは分からない。
それを確かめてる余裕もない。
そんな車や家から、時折化け物が出てくる。
それらに見つからないように。
あるいは逃げながら家へと向かう。
先ほどは他の者を逃がすために無茶をしたが。
そうでないなら危険に身をさらす必要は無い。
戦って勝てるかどうかも分からないのだ。
先ほど見た通り、相手は人間を素手で殺すだけの力がある。
対して人が化け物になったものに勝てるのかどうか。
(催涙スプレーは効いてたけど)
純粋に殴り合いなどになったらどうなるか。
さすがに試すつもりはない。
仮に戦うにしても、それなりの準備は必要だ。
武器になるものがあるなら、それを用いた方が良い。
それでも、危険は極力避けるべきではあるが。
(やっぱり、急いで帰らないと)
つくづくそう思った。
とはいえ、簡単にはいかない。
化け物がそこらから出てきている。
住宅地の中を様子を見ながら進んでいく。
物陰から様子を見て、安全そうなら歩いて行く。
走って逃げたいところだが、これがそうもいかない。
まず、走れば足音が響くことになる。
それで化け物に気づかれたら元も子もない。
それに、走るというのは長続きしない。
体力の消耗も激しい。
いざという時に動けなくなってしまいかねない。
その為、まずは下手に物音を立てないようにしていく。
やや早歩きではあるが、それでも周囲を気遣いながら進んでいく。
急いで戻りたいが、実際にはゆっくり進む。
気持ちと動きが相反して、それが焦りを生む。
だが、そんな気持ちと体をなんとかなだめながら進んでいった。
幸い、住居のアパートまでは無事にたどり着く事が出来た。
他の住人が化け物になった気配もない。
室内ではどうなってるか分からないが。
外からそれらしきものは見えない。
それに安心しつつ、自室に入る。
思ったよりも時間をかけて帰ってきた部屋。
その中からタクマは、必要なものを集めていく。
趣味にしてるキャンプ用品。
この先、当分は必要になりそうなものばかりだ。
それらを確保して、今後に備えていく。
「……にしても」
一つだけ痛い事がある。
「自転車は、無茶したな」
あの時は必要だと思った。
バス停にいたものを助ける為に。
だが、よくよく考えればそんな必要もない。
人道的に、あるいは道義的に考えれば正しい行動だが。
今後の活動や行動を考えると、助ける理由はなかった。
確かに他の誰かは助かるが。
タクマは移動手段の一つを失ったのだから。
「まあ、いいけど……」
それを悔やんでるというわけでもない。
助けなければ、それはそれで後悔しただろう。
あの時は、あれが最善の判断だったと思うしかない。
「……それよりも」
落ち込んでる場合でもない。
すぐに次の行動にうつる必要がある。




