3回目 いざという時のために備えておいてよかった、そんな時が来ないほうがよっぽど良いけど
世の中、なにが起こるか分からない。
これがタクマの信条だ。
危険で物騒な事に巻き込まれる事もあるだろう。
そういう時の対処として、それなりの用意はしてある。
そのうちの一つを取り出し、化け物へと向かっていく。
まだ体勢がととのわない化け物は、接近するタクマに対応出来ない。
そこを狙っていく。
そこしか狙い目はない。
先ほど、人間を一人吹き飛ばした。
頭を簡単に食いちぎった。
そこから見るに、目の前の化け物は人間離れした力がある。
そんな奴が起き上がったらどうしようもなくなる。
頭をもたげた今しか機会は無い。
その機会をとらえてタクマは、手にしたものを向ける。
護身用の催涙ガス噴霧器。
それを化け物に向けて噴射する。
化け物はそれを顔面に受けていく。
(効くか?)
そういう疑問はあった。
もし、こういったものに耐性があったらどうしようと。
もとは人間だったが、今のそれは間違いなく化け物だ。
果たしてそれに人間用の道具が効くのかどうか。
不安はあった。
だが、ありがたい事に化け物は顔をしかめて暴れ出す。
閉じた目から涙をこぼし続ける。
手足も苦しそうに動かしている。
タクマの相手をしてる暇はなさそうだ。
(よし!)
それを見てタクマは、すぐさま逃げ出した。
戦ってる場合では無い。
持ってるのはあくまでも護身用の武器。
多少の効果はあっても、殺傷力は無い。
そんなもので、化け物を倒せるとは思わなかった。
そもそも護身用具というのは、一時的に相手を行動不能にするもの。
打撃や痛みを与えるものもあるにはあるが、致命傷を負わせるものは少ない。
そんなもので化け物と戦えるわけがない。
タクマも化け物を倒すつもりはない。
目的はあくまで時間稼ぎだった。
逃げ出すにしても、相手が追いかけてきたら意味がない。
相手がタクマより足が速かったら致命的な事になる。
なので、追いつかれないようにしておきたかった。
しばらくの間だけでも。
その間にこの場から退散出来ればそれで良かった。
「とにかく……」
何か異常事態が起こってる。
それは確かだ。
「一度……」
こういった場合にとるべき措置は一つ。
単純でわかりやすいこと。
「帰らないと」
安全の確保。
その為に、一旦家に帰る事にする。
会社の事などどうでも良い。
命に比べれば。
その途中。
家に帰るという事も困難になってる事を知る。