2回目 我が身を呈して、などというつもりはないのだけど
異様な姿に変化していく人。
それがどれだけ続いたのかは分からない。
せいぜい数秒の出来事なのか。
何分もかけたものだったのか。
それは分からない。
ただ、それが終わった瞬間に、変わり果てた者が動き出した。
すぐ近くにいる者達に向けて。
バス停にいた他の4人。
そのうちの一人を、長く伸びた腕がはらう。
しなりをもって振るわれた腕は、当たった者を吹き飛ばしていった。
何が起こったのか分からなかった。
おもわず見入ってしまう。
そうしてる間に変化した者が、その場にいるもう一人に目を向けた。
相手の姿をとらえると、変化した者は口を開いてその頭にかじりついた。
巨大化した口は、簡単に頭一つを飲み込む。
そして首をあっさりと噛み切った。
首無しの胴体が残り、その場に倒れていく。
それを見た瞬間、タクマは動き出していた。
なぜそうしたのかは分からない。
本当に反射的な動きだった。
だが、躊躇いなど一瞬も見せずに、乗っていた自転車を持ち上げ。
異形に変化した者にそれを叩きつけていった。
手押しにしながら自転車ごと近づいた。
それから自転車を持ち上げ、くるりと回る。
遠心力をかけて自転車を振り上げ。
勢いのままに化け物に叩きつける。
1万2000円(税別)で購入した通勤用のママチャリ。
それは呆気なく使用不可能なほどにひしゃげた。
本体部分はともかく、車輪が思い切り壊れている。
だが、その甲斐あって、化け物も勢いよく吹き飛ばす事が出来た。
バス停にいた者で生き残った2人はそれを呆然とみている。
まだ正気になってない。
そんな2人に、
「逃げろ!」
タクマは大声で叫ぶ。
「早く逃げろ!」
二言目でようやく事態を把握したのか、顔に表情が戻る。
そして、
「うわああああああああああ!」
絶叫しながら走り出した。
考えもなしに走り出している。
端から見ていてもそれが明白だった。
だが、それでもタクマは、2人が逃げ出して安心した。
これで犠牲者が増える事は無いと。
ただ、タクマ自身は危険なままである。
吹き飛ばしたとはいえ、化け物が消えたわけではない。
衝撃は受けたようだが、まだまだ元気である。
長く伸びた体を起こし、タクマに振り向いてくる。
(さて、どうするかな)
そう思いながらもタクマは、落ち着こうとする。
慌てたり焦ったら出来る事も出来なくなる。
危険が目の前にあるなら、なおさら平静を保たねばならない。
そう思いながら鞄を下ろし、中をあさっていく。
こんな事もあろうかと…………という状況すらも越えてしまっているが。
何かあった場合に備えて、ある程度色々と用意はしてある。
そういった道具を取り出し、目の前の化け物と対峙していく。