10回目 今日初めてみる普通の人間かもしれない
(生存者か)
見上げたタクマはどうしたものかと考える。
今、別の誰かを助けてる余裕は無い。
かといって見捨てるのもしのびない。
見れば、まだ少年のようだ。
中学生くらいだろか。
子供と呼ぶのは憚られるが、大人というのもまだ早い。
そんな年頃の男だ。
一人で置いていくのはなんだかかわいそうではある。
かといってタクマにも余裕があるわけではない。
なんとか化け物を倒しはした。
玉という力も手に入れた。
だが、万全というわけではないのだ。
「おーい」
「はい!」
とりあえず呼びかけてみる。
返事がすぐかえってくる。
「下手に外に出るより、家の中の方が安全だと思うぞ」
「そんな事ない」
即答で否定された。
「家に居たら親が化け物になった」
「あー、なるほど」
言ってる事を理解して納得する。
それでは家の中が安全とは言えないだろう。
しかし、
「けど、もう化け物はいないし。
警察でも呼んで待ってた方がいいと思うぞ」
「通報したけど、誰も出ないんだよ」
「……なんとまあ」
考えてみれば、それもそうだろうとは思った。
何せ、いきなり化け物になるのだ。
何の予兆もなく。
それがかなり広範囲にわたって行われている。
(警察だってそうなってるだろうな)
警察だけでなく、他のあらゆる所で。
おそらく、様々な組織・機関でそうなってるだろう。
まともな活動や機能は期待できそうもない。
「けど、外に出たってこうだぞ」
そう言って、周りを示す。
もう消え去ってるが、化け物がいるのを伝える。
「俺も助けてやりたいけど、そんな余裕は……」
「一人でいるよりいい」
「そりゃ、そうかもしれんが」
気持ちは分かる。
化け物が徘徊してるのだ。
この辺りにいるのは不安だろう。
しかし。
「俺も他の誰か助けてるほど余裕はない。
自分の事で手がいっぱいだ」
正直に言う。
隠してもどうしようもない。
「自分の事は自分でどうにかしてくれ」
「分かった、そうする。
でも、出来れば一緒につれていってください。
やれる事はなんでもします」
「いい心がけだ」
その言葉が本音ならありがたい。
それを玉を使って確かめていく。
(早速使う事になるとはな)
これもまた、玉の、霊気の使い方の一つだった。
能力の一つである共感。
これは他者との接し方や相手の気持ちなどを推し量る能力だ。
これを増幅すれば、相手の気持ちをさぐる事も出来る。
とはいえ、本当に相手の心がのぞけるわけではないが。
顔色や声音、態度や仕草から相手の心がいくらか読めるだけだ。
それでも、目の前の少年の本音をはかる事は出来る。
結果は、潔白。
少年は嘘を吐いてるわけではない。
少なくとも、タクマを騙そうとする様子はなかった。
(なら、大丈夫か)
そう思ったタクマは少年をうながす。
「行くぞ」
その声に少年は安心したように表情をゆるめる。
「必要なものをもってこい。
こっちも急いでるからな」
「はい!」
そう言って少年は一度家の中に引き返す。
タクマも車に戻り、少年の家の前につける。
程なくやってきた少年に、タクマは苦笑する。
「子供の持ち物じゃないな」
「まあ、そうですね」
照れ笑いをしながら少年は頷く。
何せもってきたのは、野球のバットにゴルフのクラブ。
バットはともかく、クラブの方は子供の持ち物とは思えない。
「親のか?」
「ええ。
やたらと運動が好きだったんで」
「そうか」
だから色々と道具を揃えてたのだろう。
「もう死にましたけど」
「そうか」
あえて何も聞かない。
こんな状況だ、何があってもおかしくはない。
「それじゃ行こうか」
「はい」
車に乗り込んだ二人は、とりあえずの目的地へと向かう。
「ホームセンターで必要なものを揃える。
その後は、その時考える」
「分かりました」
「その前に」
「?」
「名前をまずは教えてくれ。
俺はタクマ」
「────トモルです」
タクマにとって最初の同行者。
久守トモルとの出会いだった。




