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5話 足

 慣れない野宿で体が痛い中、そこまで距離は離れていなかったようで、僕達はオセの村に着いた。

 そして一つ浮上した問題がある。


「おお、あなた方が勇者様、話は聞いておりますとも。オセ村へようこそ。……して、そちらの方は何故手錠を……?」


 勇者の来訪は知らされていたらしく、そこはスムーズに通った。出迎えてくれたのは村長だ。


 が、僕達の中には手錠付きアラストリア(見るからに怪しい人)が居る。

 今のアラストリアは牢屋での囚人服ではなくまともな服装なので身なりは普通だが、流石に手錠は怪しすぎる。


「あ」


 そしてそれを、僕は言われてから気がついた。

 二人を集め頭を合わせる。


「どうしよう、考えてなかった」


「え、気づいてなかったの?バカじゃん」


「別に私はどう思われようが構いませんが」


「話が拗れると面倒くさい。誤魔化す方向性で行こう」


 即座に会議を終え、僕は村長に近づき神炎(プロメテウス)を出して見せた。

 他にも集まっていた村民が感嘆の声をあげ、村長が目を見開く。


「おお、それは……」


「僕はセーレといいます。で、これが神々から授かった異能です。彼女の手枷も異能に由来する物なのです」


「そういう事でしたか……。それにしても、美しい炎だ……」


 よし誤魔化せた。

 この人が信心深い人で助かった。特に説明しなくても勝手に理解してくれた。


 ついでに本物の勇者としてのアピールも成功。勘違いとか面倒な事はお断りだ。


「良いのそんなんで?バレちゃわない?」


「アラストリアさんの殺人は王都内で完結してるし大丈夫でしょ。事実僕らの耳にも入って来てなかったし」


 ヴィネの指摘は最もだ。

 王様は教会の人を例に挙げて、信仰者の勇者に対する盲目性を指摘していたけど、信仰の度合いには個人差と地域差がある。


 殺人鬼でも勇者、は万人に通る理屈じゃない。

 ……手錠は本当になんとかしたいな。


「村長さん。僕達は今祀神都市に向かっているので、出来ればここで宿泊させてもらいたいのですが」


「もちろん。既に準備は出来ております」


「やったー!やっぱ屋根の下だよねー!」


「……そういえば普通のベッドは久しぶりですね」


「案内させましょう。……その前に、少しお話が。この村の裏手には小さな森があるのですが、そこにとあるモンスターが住み着いているのです」


 村長は深刻な表情でそう切り出した。


「トレント。樹木のようなモンスターで、森の奥に根を張っています」


「トレント……根を張ってるという事は、まだ村に被害は出てないんですか?」


「ええ。村民が偶然発見して以降、特に動きは無いのですが……」


「……成長している?」


「はい……」


 僕はあまりモンスターに詳しくない。

 そもそも異能を授かるまでは戦闘行為も慣れてなかったし、戦った事があるのは大半がコカトリスだ。


 トレントの事は良く知らないが、村の近場にモンスターを放っておくのは悪手だろう。


「成長すればどうなるかも分かりません。王都に討伐依頼も出したのですが、人手が足りないらしく……」


「分かりました。僕達がそいつを討伐しましょう」


「おお、ありがとうございます……。神々よ……」


 神々じゃなくて僕達に感謝が欲しい。

 まあ、そこはどうでも良い。この旅の目的の一つである人助けの機会だ。


 勇者らしくなってきた。勇者伝説にロマンを感じる者としてはテンション上がる。罪人であるアラストリアの扱いに四苦八苦とか、今の所実に勇者らしくない。


「何か勝手に決めてるし」


「勇者だよ?僕達。人助けはしないとね」


「ま、いいや。ベッドで寝れるなら」


 今日はもう遅い。ここで一泊してから討伐に望むことになるだろう。

 僕としては早々に終わらせたい旅ではあるが、勇者らしい行いを放棄してまで急ぐのは本末転倒だ。


「……人助け、か」


 村長に連れられ村を案内してもらっている時、ヴィネが宿の清潔さや今晩の料理の話を聞いて興奮する中、何やら考え込んでいたアラストリアさんがそう口にした。


「何も悪人を殺す事に固執しなくても、人々を理不尽から守る道はあると思いますよ。この先こういう事例は幾つもあるでしょうし、僕は積極的に介入するつもりです」


「……あなたは、善人なのでしょうね」


 アラストリアは薄く笑い、それ以降の会話は無かった。

 善人だと、彼女は僕をそう評価してくれた。初対面の時、今はまだ僕は殺す対象ではないと言っていたが、僕は彼女に認められたのだろうか


 ……僕の原動力の大半はお金だという事は黙っておこう。




 ☆



 一晩ぐっすり柔らかいベッドで休んだ僕達は意気軒高。

 早朝から裏手の森へと来ていた。


「それで、トレントに対する勝算はあるのですか?」


 アラストリアが飛んで来た虫型のモンスターをナイフで一閃しながらそう聞いて来た。


 手錠が付いてるのに良くやるなあ。戦闘になるのに解錠の要求をしてこなかったから不安だったが、あの状態でもある程度戦えるのか。


 僕に寄って来た方を神炎(プロメテウス)で払いながら答える。


「根を張っているそうですし、最初に発見した村民も威嚇されたぐらいで被害を受けてない。成長途中だからかは知りませんが、今の危険性はそうでもないんでしょう。それに、僕にはこれがある」


 神炎(プロメテウス)。樹木のモンスターにこの炎は効果抜群だろう。

 マッチ棒とは言わせない。


「それ、他の木々に燃え移りませんか?」


「あ、言い忘れてましたが、この炎は僕がある程度操作出来るんです。燃え移らないようにはこう、手の中に炎を抑え込む感じで……」


「もー!虫多いんだけど!散れっ、虫っ!」


 ヴィネが棍棒を振り回して寄って来る虫モンスターを払っている。


 ヴィネは異能を使う際、手を空けておく必要があるから基本的に武器は持っていない。まあそれは建前で、武器を扱う才能が全然無いのと本人が戦いたがらないだけなんだけど。


 でも丸腰もどうかと思うので、村から棍棒を借りておいた。役に立っているようで何より。


「虫が多いですね」


「トレントの影響かもね。……さ、そろそろだよ」


 僕達は木々が横に茂る道を歩いているが、先に進む旅に萎びた木が増えている。

 周囲の木々から養分を吸い取っているのか。やっぱり放置は出来ない。僕らに頼った村長は正解だろう。


「っ!居た!」


 萎びた木に囲まれ、そいつは居た。

 見かけは普通より大きい樹木だが、この中でこいつだけ生い茂っているのがおかしい。


 そして、幹の表面には人間のような顔があった。

 あっちも僕らに気づいてる。が、睨むように目が動くだけで何のアクションも無い。


「やっぱり。根を張ってるから動けないんだ。そうと決まれば、チクチク僕の剣で攻撃して弱ったところで根を取り除くって作戦で……」


「動いてますけど」


「は!?」


 視線をトレントに戻す。

 先程よりも顔の位置が高くなっている。どういう原理で出しているかは分からないが、僕達を威嚇するような気味の悪い声を出した。


「足が……」


「生えてるねー」


 トレントがこちらへと走り出す。

 あれ、これヤバくない?

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