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23話 馬の居ない馬車の中で

 

「いやー!ちょうど勇者様方が来ていて良かったですよ!あの村は退屈であんまり居たくなかったんですよねー」


 目の前で奇麗な赤毛をした女性がニコニコしながらそう言った。

 ストラス村での滞在もそこそこに、僕達は次の都市へと出発する事にした。


 そこでちょうど村へと着いたのが次の都市からの迎えであるこの人、アルフスだった。


「いや、それは良い事だと思うんだけど」


「何ですか?」


「僕らが乗ってるコレ、何なの?」


 僕達は今歩いても走ってもいない。座っている。

 つまりは馬車の類なんだけど、どうにもおかしい。

 アルフスはその質問に待っていたのか、やけに嬉しそうに答えた。


「よくぞ聞いてくれました!これは馬車です!」


「いや、馬居ないじゃん」


 馬車。馬を使って移動する為の道具で、僕が住んでいたイポス村にも来た事がある。

 しかしこれには馬が居ない。それなのに何故か進んでいる。


「車輪とか車体とか色々と弄ってますからね!私の意欲作です!」


「弄るって……。普通は出来ないんじゃないの?」


「私は魔術都市の人間ですよ?普通の方法なわけないじゃないですか」


 魔術都市。それが次の都市の名前だ。

 田舎育ちの僕はそもそも都市の名前に馴染みが無いが、この都市はその中でも疑問があった場所だ。


 僕の認識では、魔術とは何かを起こす不思議なものである。

 創作的な勇者伝説に雨を降らせたとか奇跡を起こした、とか書かれている事があり、それらは不思議な術である魔術によるものだと説明されている。


 つまり、空想上のもの。


「魔術って、もしかして本当にあるの?」


「ありますよ、そりゃ。あなたが今持っている鞄だって魔術都市製ですよ?」


「えっ、これも!?」


 僕が今持っている鞄は、王都出発時にくれぐれも大事にするようにと渡された物だ。

 この鞄は何故か見た目よりもやけに容量が多い謎の鞄だった。


 そのおかげで旅の荷物はここに全て入れて持ち運べている。重さも総重量と比べて何故か軽い。

 アルフスは呆れた顔をしていた。


「何だと思ってたんですか?」


「いや、王都には見たことも無い凄い道具があるんだなあって……」


「……魔術都市外の人ってそういう認識なんですねー」


 アルフスが憐れむような目で僕を見ている。

 しょうがないじゃないか。こっちは生粋の田舎者だぞ。


「まー、それはそもそも本来外には流通させてないんで見た事が無いのは当たり前なんですけどね。でも、王都に居たなら他にもこっちが作った物には触れてると思いますけど」


「えっ、そうなの?」


「宿屋とかに火を使わずにお湯が出来る道具とかありませんでした?あれもですよ」


「あ!あったあった!どういう仕組みなんだろうとは思ってたけど」


「良い宿に泊まったんですねー。アレもそこまで数は出して無かったと思うんで」


 王都で触れた不思議な道具は、この人が言うには魔術都市製らしい。

 知らない内に魔術に触れていたのか、僕は。


「結局、魔術ってなんなの?」


「人間に宿る根源的な力、私達は魔力と呼んでる物を使って事象に干渉する事ですかねー。ただその干渉は現在では物に付与する形でしか出来ていません。しかし、これはあくまで魔術研究における真の目的の副次的な――」


「ストップ、ストップ!全然分からない!」


「あら。まあ、不思議な事が出来る道具を作れるモノ、みたいな認識で良いと思いますよ」


「……それで良いよ」


 なんというか、本当に同じ人間なのか疑いたくなるくらい常識が違う。

 祀神都市も凄かったけど、魔術都市も色々と凄そうだ。


「ところで。……神々から授けられた異能というのは、見せてもらえないんですか?」


「いや、まだモンスター居ないし出さないよ」


「気になります、とても気になります。神々と魔王、勇者の存在、及びその異能は魔術都市でも焦点を当てるべき議題だとされていますが、そもそも勇者に関する根本的な研究資料がほぼありません。モンスターという不可解な存在との関連性も疑われて――」


「長い長い!モンスターが居たら出すからその時はご自由に!」


「そうですか。では、皆さんの異能の詳細を教えてもらっても?」


「それは別に良いけど……」


 それぞれの異能を説明すると、アルフスさんは顎に手を当てて何やら考え始めた。


「成程……どれも興味深いです」


「正直、異能の方が僕の想像していた魔術に近いよ」


「そういう都市外の魔術に対するイメージも興味深いですねー。……それはそうと、他のお三方は大丈夫なんですか?」


 がたん、と馬の居ない馬車が揺れた。

 この中は対面するように座席が分かれている。僕の横にはヴィネとアイムが、あっちのアルフスの横にはアラストリアが座っているが、全員ぐったりとしていた。


「ぎぼじわるい……」


「……」


「こんな、ことで……うっ」


 ヴィネは僕の肩に頭を乗せて苦しそうに、アイムはもう意識が無いように見える。アラストリアは必死に抵抗していた。

 アルフスが少し申し訳なさそうな顔をした。


「これ、まだ揺れの制御が甘いんですよねー。そのせいで気分が悪くなってしまったんでしょう」


「もうむり……」


「ちょっと、やばそうなんだけど!」


「一回止めましょうか」


 三人の背中をさすりながら、なんとなく今後が不安になった。

ちなみにアラストリアがアルフスの横に座ったのは、いざという時にアルフスに即座に手が届くからだったりします。

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