19話 二人の故郷
「降ろす事が出来る神は状況や条件に依ります。今回はセーレ様の異能を直前に見ていたのもあって、プロメテウスが繋がりやすい感覚がありました」
少し歩いた先にカエル達が住処にしていたのであろう小さな水源があった。
水に手を浸しながら、アイムは話を続ける。
「相性次第ですが、どの神を降ろしても大体はすぐに疲れてしまって長持ちはしません」
「その代わり、さっきみたいなド派手な一撃が撃てたりするわけだ」
「はい。でもさっきのは、その、少し張り切りすぎました」
そう言ってアイムは笑った。
色々な神の力を使えるという点で見れば僕の異能と似てはいるが、アイムのそれは短期的に大きな力を出せる代わりに色々と縛りがあるようだ。
正直言って少しホッとしてる。あの規模の攻撃を好き放題に使えたら僕は多分いらない。
「そういえば、あの時降ろしたのは何の神だったの?角とか生えてたけど」
「恐らく、狂気を司るというアーテーでしょう。その、あの時の私は少しおかしくなっていたので……」
「アーテーを降ろす土台が出来ちゃってたって事か」
「はい……」
「別に気にしなくていいからね。過ぎた話だよ」
彼女の異能はかなり取り扱いが難しそうだ。今後のモンスターとの戦闘では積極的に使って慣れてもらうべきだろうか。それだと一回ごとの疲労が問題だな。
「戻りました。トードはあれで全部だったようです」
「あ、二人ともお疲れ様。じゃ休憩にしようか」
辺りを軽く偵察していたアラストリアとヴィネが戻ってきた。
そろそろ昼だ。休憩するにはちょうど良い場所だった。
「ヴィネは何か気になる事でもあったの?」
アラストリアに付いて行く形でヴィネも偵察に名乗り出た。
普段のヴィネなら面倒だと言ってしなかった事だ。事実アラストリアだけでも事足りるし。
「別に。何かいたらおねーさんの戦ってるとこが見れるかなーって」
「見たかったの?まあ凄いから見たくなる気持ちも分かるけど」
「そうそう。そんなとこ」
そう言ってヴィネは手を洗い始めた。
いきなり変な事を言い出したり、少し奔放なところがあるのがヴィネだ。その理由に納得する。
「そちらは何かありましたか?」
「いや。アイムの異能について教えてもらってたんだけど、モンスターは出てこなかったよ。良い休憩場所だね」
「そのようですね。昼食を済ませましょうか」
鞄の中から携帯食料と水を取り出し、皆に配り分ける。次の都市に向かう間に村があるため、今日はそこまで行く予定だ。
「……」
「……」
「……」
「……」
各々が出す小さな音が響く。
ヴィネは水源を見つめながら、アイムは両手で持ちながらもそもそと、アラストリアは軽くストレッチをした後ヴィネの横に座り込み、食事を始める。
何か、気不味い。
「そ、そういえば、アイムと二人はお互いちゃんと自己紹介とかしてなかったよね。改めてだけどしてみたら?」
初めて会った時に一応してはいたが、あの時のアイムの様子はある種演じていたものだったらしいし、そもそもアレを自己紹介と言っていいのか。
聖女ではなくなりこうして共に旅を始めた今、改めての自己紹介は必要なんじゃないか。
「……アイムです。聖女、でした。今は勇者です。これ以上の迷惑をかけないように、頑張ります」
「うい」
「そうしてください」
「……え、それだけ?」
そっけない返事をした二人と、それに特に気にした様子も無く食事を再開したアイム。
親交を深めようという意思を全く感じない。アラストリアとヴィネは割と仲良く出来てるのに、アイムに関しては深い溝があるように思えた。
「これから一緒に行動するんだから、もうちょい仲良くした方がいいんじゃないかなー。ほら、趣味とか!」
「何そのテンション……」
何故かヴィネが呆れた様子で僕を見ている。お前はこっち側だろ。僕を手伝うとは何だったのか。
「セーレ君のであれば聞いてみたいと思いますが」
「……それもそうか」
思えば僕自身のしっかりとした紹介をしてなかったような気がする。
アイムには聖堂で少し話したがそれも中途半端だった。言い出しっぺの僕がまずやるべきか。
「えーじゃあ、名前はセーレ。歳は多分十四かな。王都からちょっと離れた場所にあるイポスっていう村で育って、ヴィネもそこで育った幼馴染。異能は皆知ってるよね。趣味は何だろう?ボールで遊んだり、後は本を読んだり?」
「……続けてください」
「あ、まだ僕?」
続きを促すアラストリアと無言で聞いてくれているアイム。既に知っているヴィネはともかく、アラストリアとアイムは僕の話に割と興味を示しているように見える。
なんだかんだ言って、お互いに対する興味自体はあるのかもしれない。
「勇者伝説関連の本はどれも好きだな。実話はもちろん大昔を舞台にした妄想がほとんどのやつも。あ、ボールで遊ぶってのは足使ったり色々やるんだけど、結構楽しいんだ。子どもっぽいけど」
「ああ、ヴィネさんとやってましたね」
「そうそう。人数も増えたし色々遊びようもあるよね」
いいぞ。確実にみんなで仲良くの流れが出来ている。
この旅の主目的は魔王とモンスターの討伐とその為の能力向上だが、当然そればかりではない。
大人数での旅にはコミュニケーションが必ず付きまとう。これまで勇者が団結出来ないとされた問題がそれだ。
みんなで仲良く。これ、大事。
「良し。僕はこれくらいにして、三人もやってみようよ。以外と皆お互いに興味あるんじゃないの?恥ずかしがってるのかな?ん?」
「別に」
「そこまで」
「セーレ様のお話なら……」
「ええ」
なんで?。
ちょっと盛り上がってた僕がバカみたいじゃないか。
……まあ、そこまで焦らなくてもいいか。
最初はヤバイ人と思いきや、アラストリアもアイムも話してみれば真っ当な人だった。その内打ち解けるだろう。案外、勇者候補達は皆相性が悪いというのは、歴史の中で誇張されたものなのかもしれない。
「ねえ、セーレ。気づいてる?」
「ん?」
イマイチ僕に協力する気が無い幼馴染がそう言った。その目は僕らが目指す方向に向いている。
「この先のストラス村って、多分あそこだよ」
「……本当に?」
「うん。この場所、見覚えがある」
ヴィネは水を掬い上げ、また水源へと戻した。
そうか。少しヴィネがそっけないとは思っていたが、それが原因だったのか。
「二人に何か関係が?」
「うん。この先にある村は多分――」
僕とヴィネのもう一つの故郷だ。




