2話 頼もしそうな仲間達
「ああああ……。何て契約をしてしまったんだ僕は……」
「セーレってホントお金に弱いねー」
王様との会話を終え、王城の帰り道を歩く僕達。
結局、その場の空気とブチ上がったテンションのまま、僕はあの契約書にサインしてしまった、
「アレは褒賞を確定させるのがメインの契約じゃない。僕を逃げられなくする為の契約だ。これでいざとなったら勇者を辞めるという方法も封じられたんだ」
「勇者って辞められるの?」
「わざわざ契約に盛り込むって事はそうだと思う。だからこれは、他の人が辞めても僕だけは最低限残る保険としての役割もあるんだ」
「そこまで分かっててなんでサインしたの?」
「テンション……」
契約神……互いの約束事を破れないようにする神だ。
村でも何度かその加護を使ってるのを見たことがある。破った人がどうなるかは見たことが無いが、碌な事にならないだろう。
「だって、一生遊べるお金が二人分だよ!?この先何があっても、僕の人生は揺らがないでしょ!」
「それも無事魔王を討伐したらって話だけどねー」
「……」
尤もである。
いくらリターンが大きくても、そもそもの条件がヤバイ。
わざわざ選別が必要な程癖のある人物達をまとめながらの魔王討伐……嫌な予感しかしない。
「ま、セーレだけが残るってのは無いから安心してよ。少なくとも私は最後まで居るからね」
そう言って、長年の幼馴染は僕の肩に左手を乗せ、右手の親指を立てた。
「ヴィネ……!頼む!勇者達の統率に最大限協力してくれ!ヴィネが手伝ってくれるのなら心強い!」
「へへ、いーよ」
「っしゃあ!」
はにかみながらそう答えるヴィネに対し、思わずガッツポーズ。とにかく未知数の他の勇者達の中、気心知れた幼馴染が協力してくれるのは大きい!
持つべきものは幼馴染なんだなあ……。
「そうと決まれば、宿で対策を考えよう。王様から残りの六人の資料を貰ったから、それを見ながら――」
「お!おーい!お前らも勇者なんだろ!」
大きな声が響いた。
それが聞こえた右方の道を見てみれば、声の主達が手を振りながら近づいて来た。
「よっす!俺ァ、マリウスってんだ!こっちのデカイのはゼパ!どっちも勇者だ!」
「……よろしく」
「あぁ、コイツは口下手なんだ!気ィ悪くしないでくれよ!」
そう言って赤いバンダナを巻いた男、マリウスはニッコリと笑った。長身で茶色の髪が特徴のゼパもそれに続く。
僕達が話す前に王様と話していた二人組の勇者だろう。
「あ、うん。僕はセーレで、こっちはヴィネ。僕達も勇者……らしいよ」
「よろしくー」
「セーレとヴィネだな!キッチリ覚えたぜ!いやー、大変な事になったな!」
マリウスが僕の横に並んできた。グイグイ来るなこの人。
「二人は僕らより先に王様から話を聞いたんだよね?」
「ああ、十人全員が勇者になって魔王をぶっ飛ばすってな!聞いてた話と違うから面食らったが、面白そうだよな!」
「面白い、かどうかは分からないけど、前代未聞だよね」
「……お前がリーダーだと聞いたが」
「ああ、そうなんだよゼパ君。僕がリーダー役で、ここに居るみんなで協力して勇者達をまとめろって」
毎回一人に絞らなければいけないほど個性的だという勇者達。
その内の比較的普通だというこの二人。まだ会って間もないが、確かに尖ってるって感じはしない。マリウスに至ってはただの好青年だ。
ちなみにヴィネは話に参加する気が無いのか、何故か後ろの方でニコニコしている。
「二人は僕がリーダーって事に納得したの?」
「俺ァそういうのは興味無いし、ゼパも多分向いてねえし、良いんじゃね?」
「そっか。それも心配だったんだよね。いきなり僕がリーダーなんて言われて納得してもらえるのか……」
「そこまで気ィ張らなくていいんじゃねえか?揉めても腹割って話して、殴り合えばダチになれんだろ!」
そう言って拳を突き合わせるマリウス。
熱血コミュニュケーションの使い手だ。この人の方がリーダーに向いてるんじゃないか。
というか、僕をわざわざリーダーにしたのは何故なんだろう。
「……俺は口下手だが、可能な限り手伝おう」
「ゼパ君……ありがとう、頼もしいよ」
大きくて少し威圧感があるが、この人が協力してくれるのは頼りになりそうだ。
あれ、意外と何とかなるんじゃないか?
さっきまでの不安感が晴れていく中、マリウスが僕に肩を組んできた。
「お前らと他の奴らの異能も気になるところだけどよ、それはお楽しみって事で。なァ、知ってるか?セーレ」
「な、何を?」
「他の六人な、皆女らしいんだけどよ、漏れなく可愛い子ばっかなんだってよ!」
「残りが女の子なのは知ってたけど……そうなの?」
マリウスが耳に囁き声で語りかけてくる。
勇者達十人の内訳は男三人、女七人になる。
王様から資料を貰った後真っ先に確認した項目であり、その性別の偏り方も僕が不安に感じていた要素だ。
「王様に聞いたんだよ!王様自身も全員を直接見たって訳じゃないらしいけどな!」
マリウスにとってはかなり大事な要素らしい。
さっきまではそんな事を考える余裕も無かったけど、マリウスの良い意味での軽さに僕も当てられてきた。
「何、狙ってるの?その六人尖ってるらしいけど」
「殴り合えばダチだ!だったら、その先だってあるだろ!それに、多少個性的でも可愛子ちゃんは可愛子ちゃんだ!」
何というか、がっつき方が凄い。
ここに居る面々は全員大体十代前半だと思うど、このテンションが普通なんだろうか。
「何だ、興味無いのか?……あっ、もしかしてヴィネか?」
そう言って後方で静観するヴィネを指差すマリウス。バレたら面倒臭いから止めてほしい。
「……ヴィネは幼馴染だよ。それに、僕はちょっとそういうの考えられる余裕が無い」
マリウスは知らないが、契約がある分僕にはどうしても強制力が付き纏う。
勇者として、そのリーダーとしてやって行けるのか。マリウスのおかげで緩まった気はするけど、どうしてもその不安があるんだ。
あとお金。
「そこまで重く考えなくてもいいと思うがなあ。そうだ、俺らこれから残りの勇者の一人に会いに行くけどお前も来るか?」
「王都に一人要るのは知ってたけど……今から行くの?」
「おう。本格的に旅が始まるのは明日からだろ?その前に顔見ときたいんだ」
どうにも、他の勇者は王都に来ていないらしい。
王様曰く、全員をいきなり集めて旅を始めればどうなるか予測が付かなくなる為、まずは平凡な僕達から始め、旅の中でそれぞれ合流していった方が良いと判断しあえて召集していないとのこと。僕もそう思う。
しかし、どうやらその一人はこの王都に居るようだ。まずは一人からって事かな?
僕も気になる、が。笑顔でこちらを見るヴィネが見えた。
「いや、遠慮しておくよ。顔を合わせるのは明日で良いかな」
「了解。じゃ、行ってくるわ!お前ら二人の事も話しとくな!」
「……また明日」
王城の入口付近に差し掛かったところで僕らは別れた。
先を行く二人に対し、通りかかった兵士が頭を下げている。その光景は、少し前までただの一般人だった僕達が勇者である事を改めて実感させる物だった。
「頼りになりそうな二人だったね」
「うんうん。それで、セーレ?」
「忘れてないよ。観光、行こう」
「いやったあ!」
ぴょんぴょんと跳ねるヴィネ。
王都に来たら観光をしようってのは前から話していた事だ。
あの二人を誘っても良かったけど、ヴィネはちょっと人見知りの気がある。ヴィネの要求的にはこれが正解だろう。
「まずはご飯を食べよう。お腹減ったよ僕」
「あ!じゃあ、さっきここに来るまでに良さそうなとこ見つけたから、そこ行こー!」
「あんまり高いとこは止めてよ。出来るだけ節約を――」
あの二人とは仲良くやっていけそうだった。問題児だという残りの六人も、今すぐに鉢合わせる訳じゃない。ヴィネも協力を約束してくれた。
――なんとかなるかもしれないな。
勇者の責務なんてまるで感じていないかのようにはしゃぐヴィネを見て、表情が緩むのを感じながら僕はそんな事を思っていた。
☆
翌日。
「ワリィ、俺勇者辞めるわ!」
「……同じく」
「は!?」
勇者、残り八人。