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10話 白の聖女

「こちらがテミスの門の跡です。かつてこの地にあった神の都の入り口だった物で、この都市の門もこれに倣って作られたのですよ」


「へ、へぇ。ほとんど崩れちゃってるんだね。ところで――」


「感じますか?神々との繋がりが。感じて下さい。それが何よりも私達の力になります」


「あー、はい。感じます。感じます」


 現在、四人目の勇者であるアイムに手を引かれて神々の遺跡を案内されている。


 アイムの名乗りの後、横に集まっていた住人達は一斉に解散し、そのままこの遺跡巡りがアイムの手によって強制的に始まった。


「本当ですか?もっと感じ取れる筈です。何しろ貴方は――」


「聖女よ。少し落ち着いてはいかがでしょうか」


「……どうしましたか、フォルス」


 暴走したコカトリスのように止まらないアイムに待ったをかけた、いやかけてくれた人物。


 あの住人達の中に居たのだろうか。遺跡巡りが始まったと思ったらいつの間にか横に居たお兄さんだ。

 今まで無言でついてきて少し怖かったが、この状況をどうにかしてくれるのか。


「勇者様方が戸惑っていますよ。名前も聞いていないでしょう」


 フォルスと呼ばれた茶髪のお兄さんが柔和な笑顔で僕の後ろを手で示した。

 そこには無視され続け確実にキレているヴィネと、珍しく不機嫌そうなアラストリアが居た。


「私は既に知っていますが……。そうですね、自己紹介をしましょう」


 アイムが二人に近づいた。ヴィネは目を合わせようともしない。


「先程聞いているとは思いますが、アイムです。あなたはヴィネ様ですね」


「はいはいヴィネ様です。こっちも知ってるから別に挨拶とかいらないよ」


「そうですか」


「そうですよ」


 アイムはヴィネに対して淡泊だし、ヴィネは怒りを隠そうともしない。


 本当に意味があったのか怪しい会話を終え、アイムの視線はアラストリアへと移る。

 ヴィネへ向けたそれとはあからさまに違う表情で。


「そして。……悪人裁きのアラストリア。聞き及んでいますよ。王都で法で裁けぬ者を殺してまわり収監されていたと」


「……」


「法は神々が遺したモノの一つ。王都では都合良く歪められていますが、神意無き殺人はどこであろうと重罪です」


「ちょ、ちょっと」


「重罪人に尊い責務を与える神々の意思は図れません。……しかし、同じ責務を授かった対等な者として、私はあなたを軽蔑している」


 ド直球にぶつけられた嫌悪の感情に、アラストリアは顔を顰める。


「……奇遇ですね。私も二言目には神を持ち出してくるようなヒトは――」


「あーはいはい!止まろう一回!」


 強制的に間に入って会話を途切れさせる。

 僕が顔を向けている方であるアラストリアに視線を送る。落ち着いてくださいという念を込めて。


 それが伝わったのか、彼女は視線を逸らしながら口を閉じた。

 そうだった。僕に与えられたのはこういう役割だった。


「やれやれー」


「おい!」


 ヴィネが楽しそうに二人を煽る。

 お前は止める側だろうが!


「聖女よ。いくら同じ立場とて同士への蔑みは神々への叛意になりかねません」


「……私は勇者ですよ?フォルス」


「存じております。ですから、私の言葉をどう扱うかは貴女次第なのです」


「……うん。うん、そうですね。あなたの言葉には理がある。受け入れましょう」


 煽るヴィネの頬を引っ張っていると、後ろでお兄さんがアイムを宥めていた。


「セーレ様、ヴィネ様、アラストリア様、申し遅れました。私はフォルス。この都市では私が皆様に侍ります。なんなりとお申し付け下さい」


「よ、よろしくお願いします」


 片膝を立てたあの姿勢になりフォルスはそう言った。

 この人らのなんなりって本当になんなりそうで怖いな。

 フォルスは笑みのまま続ける。


「今代の王の賢明な判断により、こうして欠け無く勇者が集まろうとしている。喜ばしい事です。さて、ここからの案内は私がいたしましょう」



 ☆



「疲れた……」


 ぼふんとベッドに倒れ込む。弾力と肌触りが気持ち悪いほど良い。


 フォルスの案内は丁寧かつ関心が惹かれる物で、遺跡巡り自体は楽しかった。顔も良いし背高いし完璧なんじゃないかあの人。


「……確かに、ちょっと感覚が変わったかな」


 神炎(プロメテウス)を手に出しながら呟く。

 勇者との合流以外のもう一つの目的。それは異能の向上だ。


 この都市には神々が遺した物が多い。神々との繋がりとも言えるそれらに触れる事で、異能の向上を促す。

 半分伝統のような物だと聞いていたが、実際に効果はあるようだ。


「今のままじゃダメだ。アラストリアさんが居なければ危なかった」


 今までの道中の弱いモンスターはともかく、トレントみたいに強力なのと戦う事が今後来るだろう。

 全員集まれば八人居るとはいえ、それは僕が強くならなくて良い理由にはならない。


 今日みたいに喧嘩が起きないようにするのが僕の役割。仲裁するやつが弱いのはダメだ。

 このまま八人集まって全員で魔王まで辿り着けるのかというのもある。


 何にせよ、弱いより強い方が良い。


神炎(これ)以外にも使えるようにならないと」


「――」


「ヴィネ?」


 ノック音がした。

 ここは昔から勇者を泊めてきたという伝統ある宿だ。


 遺跡巡りを終えた後、ここに案内され美味しいご飯とお風呂が僕達を迎えた。内装すらも白が多いのが玉に瑕。

 そして今、個室でゴロゴロしてた僕への来客。


「アイムです」


「え」


 十中八九ヴィネ、違ってもアラストリアだという予想が外れた。

 アイムはそもそも宿に泊まってない。わざわざ来たのか。


「開いてるよ」


「……失礼します」


 ドアが開きアイムの姿が目に入る。

 昼間の法衣をラフにしたような服装で仰々しさは軽減されてるが相変わらず真っ白。


「何か用?ああ、とりあえず座ろっか」


 備え付けのイスに座るように促す。

 テーブルを挟んで僕も座る。


「で、何でここに?」


 正直言って、昼間に話してる感じだとあんまり仲良くなれそうにない。

 熱心に神々を信仰する人は今まで何回か見て来たけど、この人はその中でも最上位だ。出会って早々感涙されるとは思わなかった。


 信仰心が薄い僕にとっては正直キツイ。何故か僕に注目してるっぽい事も含めて。

 なので、手早く要件を聞く。


「……わ、私は神々に信仰を捧げられているでしょうか」


「へ?えーと、十分だと思うけど」


「本当、ですか?」


「うん」


 信仰。難しい話だ。

 昔、教会の人に教えてもらった事がある。

 信仰とは無形だと。昼間にアイムが言っていた通り、法は神々が遺したルールだ。


 でも神々を崇める方法の正解は遺されていない。

 祈ればいいのか。身を捧げればいいのか。

 正解は誰も知らないと。


「最初の方の遺跡の紹介も凄く詳しかったし。そもそもそうじゃないと聖女なんて呼ばれないんじゃないの?」


「そう呼ばれているのは私が神々との()()()を知覚出来るからです」


「繋がり?」


「感覚的な話なんです。勇者の発見もこれを辿りました。……声が聞こえる事もあります」


 内心で納得する。

 確かに僕とヴィネの異能は村で騒ぎになった。それが噂として広まるにしても見つかるのが速かったとは思っていた。


 それはそれとして。ここまでの会話で湧いた違和感。


「セ、セーレ様はその繋がりが凄く多いのです。私や、他の勇者よりも。剣を出してもらっていいですか?」


「ん、離れててね。……はい」


「……す、凄い。やっぱり違う……」


 何というか、おどおどしてる?目も普通だ。

 神炎(プロメテウス)を食い入るように見ている。しばらく時間が経って、このままだとずっと見てそうだと断りを入れて消す。


「……ですので、そんなセーレ様が神々へと向ける信仰とはどのような物なのかと……」


 本題はここからだった。少し期待しているような声音に罪悪感が湧く。


「あー……。ごめん。正直に言っちゃうと僕はそういうの薄いんだと思う」


「う、薄い?」


「うん。なんというか、住んでた村がここみたいじゃ無かったんだ、全然。だからそこで育った僕も、いまいちというか」


「……そう、ですか」


「うん。だから僕なんかよりもアイムの方がずっと信仰心はあると思うよ」


 目の前で堂々と言うのはどうかと思ったが、隠していてもしょうがない。

 聞きたかったのはそれだけだったのか、彼女は小さな声で礼を言った後、立ち上がり部屋を出て行った、


「おやすみ。また明日」


「……」


 返事は無く、彼女は白く暗い廊下を歩き始めて直ぐに見えなくなった。

 扉を閉め、沈黙の戻った部屋でベッドに座り込む。


「花……?」


 さっき彼女が立ちがった時、服の布の重なっている部分の下に花らしき刺繍がチラっと見えた。

 ここの人たちの服は皆白一色。だからそれが変に映った。

 昼間と違う態度。花の刺繍。


「……分かんね。でも、仲良くなれないって決めつけるのは早いかな」


 彼女について考えている内に、気づけば僕は眠っていた。


ブクマ、評価等々ありがとうございます。

モチベになります。マジで。

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