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1話 魔王討伐は全員で

「進捗は?」


「今代の候補者計十名の身元確認、及びそれにまつわる諸事の解決、滞り無く進んでおります」


 厳かな雰囲気を纏った老人達が、円卓を囲み言葉を交わしている。

 誰一人としてその表情に緩みは無く、その議題の重大さを示していた。


「勇者選定……。候補者達から最も勇者に相応しい人物を選び出す為の準備は?」


「滞り無く」


「宜しい。……では王よ。選定の議、開始の合図を」


 言葉を挟まず、腕を組み老人達の言葉をただ聞いていた男に視線が集まった。

 老人達に目を向けられながら、王と呼ばれた男は憮然と呟いた。


「全員で行けば良くね?」




 ☆





「という訳だ」


「えぇ……」


 そうして目の前に居る男……この国の頂点に立つ現国王様は話を終え、髪を掻き上げた。


 今僕は人間達にとっての中心地である王都、そしてそこで王が住まう王城の一室に居る。

 王都に着くや否や親衛隊らしき人にここまで案内され、明らかに玉座がある広い部屋をスルーしてこのこじんまりとした部屋に通された。


 王様曰く、あそこで話をすると一々声を張らないといけないから嫌らしい。それでいいのか。


「勇者は最も優れた一人だけなのでは?私とセーレが育った村ではそう教えられましたけど。ねえセーレ?」


「ああ、うんそうだねヴィネ」


 僕の他にソファーに座るもう一人、幼馴染のヴィネがそう質問した。


 切り揃えられた銀髪から覗く藍色の目に緊張感は無い。目の前の人王様なんだからちょっとは緊張しててほしい。


 王様は説明が求められる事を予期していたのか、詰まる事無く話し始める。


「通例はな。そもそも、お前らが聞いたのはどんな話だ?」


「えーと、百年に一度、人を脅かす魔王が生まれる。それに対し、人々を愛する神々は特別な力を計十人に与え、その中から最も優れた者を勇者とし、魔王を討伐する使命が与えられる、というような」


「結構だ。では疑問に答えよう。神々から力を与えられた十人は実在する。それはお前達が身を以て理解しているな?」


「はい」


「この二ヵ月、大変だったもんねー」


 ヴィネが頭を肩に乗せようとするのを手で押し返す。何故この場でそれが出来るんだ。


 二ヵ月前、復活する魔王に対抗する力を神々より授ける、といった旨の夢を見た。


 起きた時、実際に異能を授っていた僕はそれはもう驚いた。幼馴染のヴィネも同じだというのだから更に驚いた。


 まもなく、噂を聞きつけた王都の視察から異能の研鑽を命じられ、時が経ち今に至る。


「では次だ。お前達と同じく力を与えられた他八人。計十人から最優の一人を選び出すという行為の意味は……ぶっちゃけ無い」


「無いんですか!?」


 頭が痛くなってきた。

 勇者伝説はとても崇高な物だ。それに関わる物も何かこう、特別な意味付けがされている物だと思っていた。

 勇者選定なんて、その最たる例。


「無いんだよ。神々から一人に絞れとお達しがある訳でも、異能の関係上とかでも無い。少なくとも、()()()()()()()()は」


「……何かこう、俗的な物はあると?」


「グッド」


 王様が指を向けてきた。肯定の意味なんだろうか。

 何か試されてるのかこれは。

 ヴィネは受け答えを僕に託したのか沈黙してる。参加してくれ。


「一人に絞る理由は至って単純だ。それは……」


「それは……?」


「――毎度毎度、候補者達が尖りすぎてるんだ」


「尖り……?」


「これを見ろ」


 王様が僕に一枚の紙を渡してきた。

 文字がズラッと並んでいる。ヴィネも気になるのか覗き込んできた。


 サラッと読んだだけでも、かなり物騒な事が書いてある。


「否神派の両親の元生まれ育ち、五歳の頃に教会へのテロに参加……」


「それに唯一生き残って以降、否神派のリーダーとして勢力を伸ばし……って良くやるね。ゴリゴリの悪い人って感じ」


「そいつは百年前の勇者候補の一人だ」


「え!?こんな経歴の人が!?」


「ああ。他にも、凶悪犯罪者やら、今度は神々の敬虔な信徒やら、記録が残ってる中での候補者達はこんなんばっか。神々は一体何を考えて力を与えているのか気になるな。で、そいつら全員一丸となって魔王討伐なんて出来ると思うか?」


「……自滅しそうですね」


「だよな。だから実力と性格の釣り合った一人を選出して、それを可能な限りバックアップする形で今までやって来たんだな。これが勇者選定の意味だ」


 何だろう。子どもの頃から聞かされてきた崇高な話が一気に崩れた気がする。


 僕自身、神々への信仰は力を授かった今でも正直薄い。神々が居るという実感は増してきたけど。

 でも、勇者伝説にはロマンがあって好きだった。選定とかカッコイイじゃん?


 その中の一人に何の因果か選ばれ、その伝説に釣り合うように出来る限りの努力をしてきたのに……。

 うなだれる僕の頭をヴィネが叩いてくる。うざい。


「そう落胆するな。お前にモチベーションを無くされては困るんだ」


「……今回は全員で行くって話と関係があるんですか?僕のやる気と」


「察しが良くて結構。実は今回の候補者には、お前も含めて常識的な人物が多くてな。お前達の前に話した二人組がそうだ」


 この部屋に来る前に、王城を歩き回っていた二人組を見かけたがそれだろうか。

 そうすると、十人の内四人はマトモだという事になる。

 ……というか、何となく話が読めてきた。


「お前をリーダーに据える。そしてその他と支え合い、癖のある候補者達をまとめてほしい」


「本当に言ってます?というか、十人全員勇者とかまかり通るんですか?勇者選定って何百年と続いてたんじゃ」


「余は王である。頭の固い老人共は説き伏せ済みじゃ」


 ゴリ押しすぎだろ。


「メリットは多いぞ。まず、魔王までの道中と魔王自体の討伐は圧倒的に楽になるだろうな。神々の異能の力は凄まじい。勇者の面々をまとめ上げさえすれば、歴代最短が狙えるぞ」


 確かに十人も勇者が居れば魔王も余裕かもしれないが、僕は知っている。

 こういう時にメリットを大々的に語る大人は悪い大人であると。


「二つ目は経費の削減だ。一人の勇者を魔王まで連れて行くには多大な出費を伴うレールが必要だ。そこを削減できる。まあ、これはほとんどが魔王討伐の褒賞と相殺されるだろうがな」


「褒賞……」


 勇者伝説のお約束、醍醐味。

 姫様との結婚とか、伝説の武具とか、お金とか。

 お金。


「恐らく、最も負担の大きいお前にはそれを大幅に上乗せしても良い。契約書も用意してるぞ。契約神の加護付きのな」


 ひらひらと王様は契約書を見せて来る。

 とんでもない話だ。選定なんて物をする理由になった、癖のある人達のリーダーが僕? 


 普通だという他二人と、僕とヴィネとで単純に考えて四対六。三人と協力してもそもそも人数差がある。


 授かった異能を抜けば、ただの田舎者の僕にそれが出来るのか?

 そんな如何にも厄介そうな役目を?


「……具体的に、どんな褒賞が?」


「んー、単純に金に換算すれば、死ぬまで遊んで暮らせるのが二人分くらいか?」


「――やります!」



 僕は、お金が大好きです。

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