Close4:強引と懇願
突然カレンの前に現れたルールー・ルシルという魔女。
ヤドリギ曰く、カレン並みに強いらしいのだが、攻撃の気配はなく自身の要求を飲めと、一方的に推してくるのみであった。
「カレン・バースレイン。あなた……私を雇いなさい! いえ、雇わなければならないのよ!」
勝手に涙目になり突きつけてきた要求は、懇願のようにも思えた。
「つまりキミは、ボク達の仲間になりたいと?」
「なっ! 違うわよっ! 誰が仲間になんてっ! 私は雇えと言ったの!」
「何が違うのかさっぱり分かんないけど、どうする? カレン」
ヤドリギは明らかに面倒なことになると察したが、カレンはそういった部分が鈍感なので、目の前の高圧懇願ガールを、かわいそうとさえ思っていた。
「さっきも言ったけど、あなたには私を雇わなければならない理由があるのよ」
初めましてだと言っておきながら理由があるだなんて、矛盾しているだろうとヤドリギが口に出す前に、ルールーが口を開いた。
「私を雇わざるを得ない理由。それは……あなたがこの世界を平和にしたせいよっ!」
「えっ? なんですってぇ!」
「ほらぁ、意味わからないじゃんかぁ! カレンもリアクションおかしいよ」
ヤドリギだけが冷静さを保っていた。
「いい? 私は対魔士として、国では騎士団と同等の立場にあったの。それはもうスゴかったのよ。道を歩けば誰もが私に尊敬の眼差しを向けた。でも、あなたが魔王を倒し、世界が平和になったせいで、私の対魔士としての力は、必要なくなってしまったの! だから……あなたは私を雇う義務があるのよ!」
「言葉の通じる魔物が現れたようだ。カレン? こんなのに付き合ってたら時間がいくらあっても足りないよ。さぁ、行こう」
「待ってください。この方の仰っていることの全てが間違いという訳でもないでしょう?」
確かに全て嘘であるということではないが、言い掛かり以外の何ものでもないということも事実である。
「それにこの先のことを思えば、ヤドリギさん以外の存在が必ず必要になりますし。ここは新しい仲間をお迎えするということでどうでしょうか?」
“この先のこと”──
この二周目の旅を、一人と一本で達成することは難しいとヤドリギも考えてはいたのだ。
「わかったよ。キミがそう決めたのなら、ボクはそれに従うのみさ」
ヤドリギの言葉を聞いて、ルールーの前に立ったカレン。
「これからよろしくお願い致します。ルーちゃん」
「……ルーちゃん?」
辺りをキョロキョロと見渡し、改めてルールーは自分を指差しながら確認した。
「えっと……ルーちゃんて、私?」
「はい。一緒に旅を続けていく訳ですし、ルールー・ルシルと呼ぶのも長いので、ルーちゃんと呼ばせていただきますわ」
耳を真っ赤にしたルールーは、背を向けると……。
「好きに呼ぶといいわ。雇用主ですしね」
実は内心もの凄く嬉しいルールー。
こうして、二周目にして初めて仲間が出来たカレンは一路、東の街“イスタデル”へと向かうのであった──