Close2:抗えぬヤドリギ
カレンには同行者という意味で、仲間と呼べる者がいませんでした。強いて言えば、喋るヤドリギの杖くらいなものです。
「ねぇ、カレン。前の旅とは違うんだからさぁ、ピューンと飛んで行けばいいんじゃない?」
「それはいけません。旅には風情があって然るべきだと思いますよ。便利は人をダメにすると先生も仰っておいででしたし」
カレンの先生はこの大陸を統治する王の側近であり、その名は他国にも十分な影響力を持っておりました。
大賢者クラウス・ヴェルハルト──
カレンはクラウスが認めた唯一の弟子であります。
「風情ねぇ。時間は有限。まさかそれを忘れちゃいないよね?」
「もちろんですとも。ですが、私はこの旅で見てみたいのです。脅威が取り除かれた世界で、皆様がどんなお顔で今をお過ごしになられているのかを」
「言葉を変えれば、出会った皆がちゃんと暮らせているかどうかってことでしょ?」
「正解です。アフターケアまでしっかりしなければ、私は大賢者クラウス・ヴェルハルトの弟子ですから」
ヤドリギに顔があったら、やれやれといった表情をしているに違いないだろう。
「それで? 次はどこへ向かうつもりなんだい?」
カレンは徐にヤドリギを持った腕を伸ばすと大地に立て、カタンという音を鳴らし倒れた方向を向いた。
「何してるの? ひょっとして……」
「東に行きましょう!」
「決め方原始的過ぎない? あと一応ボク杖だからさぁ。ほら、世界を救った杖だよ? こういう使い方はどうかなぁ? 雑じゃないかなぁ?」
「二周目の世界はいったいどんな景色なのかしらね。さぁ、行きましょう!」
「もしも~し。聞こえてますかぁ?」
平和な世界を行くカレンとヤドリギ──
その背中に視線を注ぐ者がいることを、カレン達はまだ知らないのでした──
「見つけたわよ。ゼロの魔女」