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Close1:虹を心と大空に

 暖かな陽射しと、木立で休息する鳥のさえずりに、世界は平和を実感せずにはいられなかった。


 魔王軍の侵攻により荒廃した土地も、人々の力できっと復興することだろう。


 時間は沢山あるのだ……ただ一人を除いては──



「うっ……うぅぅぅん! 皆さん、おはようございます。今日もいいお天気ですね」



 両手をめいっぱい伸ばし、開けていた窓から入って来た囀りの主に挨拶をしたのは、“ゼロの魔女”こと、カレン・バースレインである。



「まぁ。今日も私にお礼を?」



 窓枠には鳥達が採取して来た木の実が数個置かれており、そのどれもが回復薬を生成する上で、大変貴重な物であった。



「ありがとうございます。私は今日、二度目の旅へと向かおうと思います。皆さん、どうかいつまでもお元気で」



 鳥達はカレンの言葉を理解したのか、肩へ乗ると甘えたような声で一度だけ喉を鳴らしてみせた。


 身支度を整えて、持ちきれない程の荷物を前にしたカレンは、ヤドリギの杖を取り出し、ひょいっと一振り。



「空間転移魔法、きちんと覚えておいてよかったわ。先生に感謝しなきゃいけませんわね」



 対象を瞬間移動させることが出来る魔法を荷物に掛けたことで、今頃カレンの部屋は、飛ばされた荷物でいっぱいになっていることだろう。


 この魔法の欠点は、移動先の物を動かすことが出来ないということ。


 つまり、部屋の中は……。



「……帰ったらお部屋の扉開くかしら」



 そんな心配をしつつ、宿の外へと出てみると、カレンはその光景に息を飲んだ。


 決して大きな街では無いが、ここで暮らす全ての人達がカレンに感謝を伝えようと、宿屋前の広場に集まっていたのだ。



「魔女様、ありがとうございました。救っていただいた命、精一杯生きたいと思います」


「カレンおねえちゃん。これ……」



 小さな女の子の手には、摘んできてくれた可愛らしいお花が握られていた。



「ありがとう。お礼に私からも皆様へプレゼントです。どうか受け取って下さい」



 カレンはそう言うと、少しだけ街の人達から距離を取り、青く澄んだ空へと杖を掲げた。



「長く辛かった日々は、皆様の心に絶望を与えたことでしょう。悲しみの涙を流せど、もう叶わぬ再会もあるでしょう。それを乗り越えてとは言いません。天より降った雨が大地を固め豊穣を下さる時、その空には大きな大きな虹が掛かります。だから……どうか皆様の心にも、こんな虹が掛かりますように!」



 街の人達が空を見上げると、誰も見たことのない架け橋が、それは見事に掛かっていた。


 虹はこの国にとって希望の象徴であり、再生を意味するもの。



「別れは惜しいですが、この街のこと、そして皆様のことを……私は忘れません」



 カレンは自分に注目が集まるように杖を顔の前に出すと、詠唱を始めました。



「ありがとうございました。そして……さようなら」



 ヤドリギの杖は眩いばかりの輝きを放ち、しかし、一瞬でその光は収まりました。



「これで、皆様の記憶から私のことは消えたわ」


「ホントにこれでいいの?」


「私が必要な世の中になってはいけないのよ。だから私は……忘れてもらう旅をするの。“いただきモノ”を返しながらね。それに、あなたがいるもの。寂しくはないわ」


「ふぅん。まっ、キミがいいならボクが口出しすることじゃないけどね」



 カレンは喋るヤドリギの杖をしまうと、街の人達の笑顔をその胸に焼き付けながら次の街へと旅立ったのでした──

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