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海より広い心でお読みください。

女官長様と執事様の電撃訪問があった日、急いで家に帰って家族に自分が選ばれる可能性の全くない王子様の結婚相手を探す舞踏会に出席することになったことを話すと大笑いされた。ひどい。

兄なんか「お前が森で王子様と会っていたら、森の乙女ならぬ森のおばけだもんな。」と言って大笑いしていた。

なので私が粗相して一族郎党取り潰しにならないといいわねと脅しておいた。

そしたら青ざめて謝ってきて、マナー教室でしっかり勉強するよう頼まれた。私の大変さが分かればいいのよ。

アラルにも早く話したかったのだが、なかなか会えずまだ話せていないのだ。

でも今日は久しぶりのお休み、アラルのところの鍛冶屋に行けば会えるだろう。すこし気合を入れて身支度する。お昼休みに一緒にご飯でも食べられるといいなと思って軽食も作っていく。


「おばさん、こんにちは。アラルはいるかしら?」

「クレタちゃん、よく来たね。ちょうどお昼休みに入るところだろうから呼んでくるよ。」

アラルのお母さんはいつも明るい、おじさんは寡黙でまさに職人って感じだけど。

「ありがとうございます。」

「少し片づけたら来るってさ。」

おばさんと話しながらアラルを待つ。おばさんが深刻そうな表情で話す。

「クレタちゃん、王子様の結婚相手を探す舞踏会に出ることになったんだって?」

「そうなんです。そのことをアラルに話そうと思って来たんです。」

「アラルはクレタちゃんのことが大好きだから、見捨てないでやってほしいんだよ。もちろん私たちもクレタちゃんが嫁に来てくれたら嬉しいと思ってる。」

「ありがとうございます。嬉しいです。」

すがるようなおばさんの視線に、アラルが何かやらかしたのだろうかと考える。

浮気?借金?どれもするようには思えないけど。

「母さん、クレタを困らせるなよ。」

私が考えている間に片付けが終わったようでアラルがやって来た。

「クレタ、行こう。」

「おばさん、失礼します。」

おばさんを気にしていると、アラルに連れられて外に出された。慌てて挨拶したけど。

こんなアラルは珍しい。

「サンドイッチを作ってきたの、公園で食べましょう。話したいこともあるし。」

「…ああ。」

公園でサンドイッチを食べるが、全く話が続かない。私が何を言ってもアラルが「…ああ。」しか言わないのだ。

何か私がしたか?それとも本当にアラルが浮気したのだろうか等と疑心暗鬼になっていると、ようやくアラルが口を開く。

「…王子の結婚相手を探す舞踏会に出ることになったんだろう?」

「そのことを話そうと思ってきたのよ。」

「…クレタの邪魔をする気はない。…別れたいなら別れる。」

別れるべきなんだろうが、俺からは言えなくてな。と自嘲するようにアラルが話す。

予想外の言葉に頭が真っ白になった。一度深呼吸をして自分を落ち着かせる。

よく考えれば別れたいと言われたわけではない。むしろ私が別れたがっているみたいだ。

何か思い違いがあるに違いないと思い、息を吐く。

「ちょっと待って。なぜ私が別れたいと思っていると思うの?」

「・・・王子に見初められたんだろう?俺みたいなしがない鍛冶屋よりも、王子と一緒にいるほうが幸せだろう…。」

悔しそうに話すアラルに、何を勘違いしているか分かったが、あえて話を続ける。

私をあんなに焦らせたんだからいいわよね。表情に出さないよう気をつけなきゃ。

「…アラルが思う私の幸せって何?」

「…お城できれいなドレスを着て、美味しいものを食べて何不自由ない暮らしができるだろう。」

アラルの言葉にため息をつく、アラルがびくっとするが気にしない。

「…聞き方を変えるわね。私が幸せを感じる時ってどんな時?」

「…ご飯を食べている時、刺繍をしているとき、日向でまどろんでいるとき。笑っている時。」

「分かってるじゃない。それってアラルと一緒じゃ出来ないかしら?」

「…出来る。」

「私は隣に好きな人がいて、あったかくておなかいっぱいなら十分幸せよ。…この条件はアラルしか果たせないと思うのだけれど。」

言うやいなや抱きしめられる。ようやくアラルにも私の言いたいことが分かったみたいだ。

「…すまない。王子に勝ち目なんかないと思ってたんだ。」

「勝ち負けも何も王子と争ってすらないわよ。」

アラルがきょとんした目で見つめてくる。ここでようやく勘違いについて話すことにする。


アラルが頭を抱えている。

「…恥ずかしくて死にそうだ。」

「だいたい私はお城で働いてるのよ。わざわざ舞踏会なんか開かなくてもすぐ声をかけられるし。なんでそんな勘違いしたのかしら?」

「結婚相手を探す舞踏会って聞いてたから…。」

「舞踏会に何人の黒髪に緑の瞳の乙女が来ると思っているのよ。私なんか選ばれないわよ。」

「…クレタだけじゃないのか。」

どうやら私だけ招待されていると思っていたらしい。

「それで、私に言うことはあるかしら?」

「勝手に身を引こうとしてすまなかった。」

「そうよ。私の幸せをアラルが決めないで。今までやってきた刺繍が無駄になったかと焦ったわ。」

「すまなかった。…刺繍?」

「…なんでもないわ。」

慌てて誤魔化す。プロポーズもされてないのに花嫁衣裳に刺繍してるなんて恥ずかしすぎるもの。私が毎日仕事終わりに家でチクチク刺繍しているのはこれだったりする。

「…俺の勘違いでないといいんだが、花嫁衣裳の刺繍じゃないのか?」

なんでこんな時だけ鋭いのよ。しょうがないので、ふてくされながら肯定する。

「…だったら何?」

「俺と結婚してほしい。」

このタイミングで言うのかと内心文句を言うが、これが私達らしいのかもとも思う。

だってムードも何もなくてもタイミングがおかしくても十分幸せに感じてるんだから。

アラルが不安そうに見つめてくるのが、いい加減かわいそうに思えてきたので答えることにする。

「そのために刺繍してきたのよ。結婚してくれなきゃ困るわ。」

言うやいなや、今度は私がアラルに抱き着く。

「一緒に幸せになるんだからね。」

「もちろん。」

どうやら私の恋はひとまずハッピーエンドに落ち着くようだ。


最後までお読みいただきありがとうございました。


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