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ご容赦賜りますようお願い申し上げます。

鐘の音がする。

「よし、ちょうど終わった。」

破れた袖をきれいに繕い終わったところだった。皆に挨拶をして帰る準備をする。

「私がお城で働くことになるなんてね。」

お城を振り返りながら帰り道を歩く。


私はクレタ。17歳のお城のお針子だ。

平凡も平凡の普通の娘。少し珍しいと言えるのは黒色の髪ぐらいだろう。黒髪に明るい緑の瞳。自慢できるのは少し鼻が高いところと刺繍の腕ぐらいである。

そんな平凡な私がなぜお城で働いているかというと、もともと私の両親は小物問屋をしていて、そこに私が刺繍した作品を売っていた。

その作品をお城の人が見て、幸運にもお城で働けることになったわけだ。

といっても新入りなので、もっぱらお城で働いている人のほつれた制服を繕う毎日だ。お姫様のドレスに刺繍など夢のまた夢である。刺繍は家に帰った後に自分用にちくちく刺している。


「クレタ、今帰りか?」

声をかけてきたこの男は、私の幼馴染かつ交際相手のアラルである。

くすんだ赤みのある茶色の瞳に焦げ茶色髪、自信を持って格好良いとは言えないが、笑った顔が好きなのだ。すこし口下手なところが傷だけど。

鍛冶屋の息子で、父がアラルの父と取引をしていたことから幼いころからの知り合いである。

なんだかんだ付き合うことになって結構長い、もうそろそろ結婚も考えてもいいと思うのだが決定的なことはまだ言われていない。

まあ、もうすぐ言われるんじゃないかと思っている。

「そうよ、アラルこそどうしたの?」

「納品した帰りにクレタを見かけたんでな。…家まで送っていく。」

少し照れながら話すアラルを見て笑顔がこぼれる。

「ありがとう。うれしいわ。」

そのまま話しながら二人で家に向かったのだった。



今日もお城で破れた制服を繕っていると、誰かが訪ねてきたようだ。まあ私じゃないだろうと思って作業を続けていたら、上司に呼び出された。

何かやってしまったかと考え続けるも何も思いつかない。

向かった先には女官長様と見知らぬ男性がいた。女官長様には面接でお会いしたことがある。しかし男性には見覚えがない。白いお鬚に目じりの皺が可愛らしいおじい様だ。

そんなことが表情に出ていたのか、女官長様が説明してくれた。

「この方はウェッデル殿下の執事のロス・アムンゼン様です。」

それを聞いて慌てて頭を下げる。不躾な視線を咎められないよう祈る。

ウェッデル殿下といえば、この国の第一王子である。そんな方の執事様が私に何の用があるというのか。

頭を下げて執事様の言葉を待っているとようやく執事様が口を開く。

「頭を上げてよい。瞳の色を見せてほしいのだ。」

どうやら怒られるわけではないらしい。内心ほっとしながら頭を上げる。

「ふむ、確かに黒髪に緑の瞳であるな。」

みすかされるような視線に身がすくむ。

「城で黒髪、緑色の瞳で17から18歳の娘と言えばこの娘だけです。」

女官長様が執事様に声をかけたことで視線が離れた。女官長様、ありがとうございます。

「娘よ、名前はなんというのだ。」

さっさと目的を説明してほしいと思いながら執事様に答える。

「お針子として働かせて頂いております。クレタと申します。」

「クレタよ、この度城でウェッデル殿下の結婚相手を探す舞踏会が開催されることとなった。その舞踏会に出席せよ。」

「無理です。私ドレスもないですし、ダンスもできません。マナーも知りませんし。」

焦りすぎて思ったことを話してしまった。慌てて口を閉じる。

女官長様は呆れた様子だ。執事様は少し笑ってまた話し始める。

「ドレスがない者には貸しだす予定であるから大丈夫だ。ダンスもしなくてもよい。近くに城で舞踏会に出席する者向けのマナー教室を開く予定であるから、それを受けるとよい。」

なんでそこまでしてもらえるのだろうか。そんなに準備をするとなれば出席する平民は私だけではないのだろう。

「なぜそこまでして頂けるのでしょうか?出席する平民は私の他にもいるのですか?」

「殿下の命だからな。この舞踏会には、この国にいるすべての17歳から18歳の黒髪に緑の瞳の乙女が招かれることになっている。」

さすがは王子様、スケールが違う。

「失礼ながら何故に黒髪に緑の瞳の乙女なのでしょうか?」

「王子が森で黒髪に緑の瞳の乙女に会ったらしいのだ。その乙女にもう一度会いたいと探しておってな。」

それなら私が選ばれる可能性はない。会ったことないし。

「私はその乙女ではありませんので欠席してもよろしいでしょうか?」

「この国にいるすべての17歳から18歳の黒髪に緑の瞳の乙女を集めよということでな。すまんが出席は決定事項だ。」

例外はないということだろう。舞踏会といえばドレスである。素敵なドレスをたくさん見られるだろうし、準備もしてもらえるならまあいいか。

「承知しました。」

こうして私は自分が選ばれる可能性の全くない王子様の結婚相手を探す舞踏会に出席することになったのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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