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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

世界が終わる1週間

作者: 道端石人

 夢を見た。


 見渡す限り真っ白な空間に僕は立っていて、その正面には若い女がこちらを見つめていた。歳は高校生くらいだろうか、肩にかかる長い黒髪、大きな瞳と可愛らしい小さい鼻が優しい印象を与える。僕はこの女を知っていた。


「香織?」


 香織は小さい頃からの知り合いだった。幼稚園から高校までずっと同じ所に通っていた。家が近かったこともあり彼女と僕は自然と仲良くなった。僕が根暗な引っ込み思案なのとは反対に彼女はとても明るい。いつも明るい笑顔で僕を照らしてくれていた。彼女はまさに僕の太陽だった。そんな彼女が今僕の目の前にいる。そんなことはありえないのに。


「夢か」


 そんな当たり前のことに気づくのにも時間を要してしまった。彼女はもう居ないのだ。僕の前に現れるはずが無い。


「ごめんね、香織さんじゃなくて。」


 偽物がそんなことを言った。香織の姿と声を使われていると思うととても腹が立つ。そんなことを思っていたからか僕は知らないうちに睨みつけてしまっていたようだ。


「そんなに睨まないでよ。この姿は君が1番見たい姿になっちゃうんだ。」


 偽物は困ったような表情でそう言った。自分が望んでいるのにそれに対して怒りを覚えるなんて僕は本当に道化だ。しかし頭では分かっていても嫌悪感は消えない。


「今日は君にいい話を持ってきたんだ。」

「いい話?」

「そう、いい話。僕は君の願いを一つだけ叶えに来た。」


 話し方だけ聞くと悪徳商法のようだ。悪魔なら願いを叶える代わりに魂を奪われるらしい。どちらにせよこれは夢だ。真面目に考える方が馬鹿らしい。


「なにか対価が必要なのか?」

「要らないよ。悪魔じゃあるまいし。」

「なんでもいいんだな?」

「そう、なんでも。『億万長者になりたい』でも『世界征服したい』でもなんでも。それこそ…」


 偽物は少し溜めてこういった。


「『大好きな香織にもう一度会いたい』だって叶えてあげられるよ。」


 香織にもう一度会える。それだけで僕の感情は激しく揺さぶられた。香織にもう一度会えるなら死んでもいいと本気で思っていた。悪魔に魂を売ったって構わない。しかし彼女は望んでこの世界を捨てた。この世界を心底嫌っていたのだ。そんな彼女をこの世界に呼んでしまったら会った瞬間に怒られてしまうだろう。もし会えたとしても彼女はまた僕の前から居なくなるに違いない。そうなったらきっと僕は耐えられないだろう。彼女と2度も失うのは嫌だ。


「さあ、君の願いを教えて。」

「僕の願いは…」


 僕は何を願えばいいんだろう。彼女に会えるように僕を殺してもらうか。いやダメだ。それはダメだ。それは彼女との約束を破ることになる。なら何がいい。僕にはもう何も無い。こんな世界でダラダラと死んだように生きていかなければならない。ならこんな世界を、僕と彼女が心から憎み嫌っていたこの世界を…


「世界を終わらせてほしい。」


 気づけば口に出ていた。それを聞いた偽物はニッコリと微笑みながら頷く。


「やっぱり君は面白いね。わかったよ。」


 そう言うと偽物は眩い光に包まれていった。僕は目を開け続ける事が出来ずに目を閉じる。目を閉じて偽物の姿が完全に見えなくなる頃に声が聞こえた。


「楽しみにしててね。」


 目を覚ますとベッドの上だった。僕の部屋だ。夢にしてはハッキリ記憶が残っていて偽物の笑った顔が変に脳裏に張り付いていた。


「起きるか」


 僕は起きて顔を洗う。冷蔵庫からコンビニで買っておいた弁当を温めた。大学の講義にはまだ時間がある。いつもなら時間ギリギリに起きるが今日は講義まで家でゆっくり出来そうだ。そんなことを思いながら弁当に手をつけつつテレビの電源をつけた。


「世界中の約7人に1人が行方不明との事です。」


 僕は箸を落とした。


 世界終了の7日間が始まる。

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