第五夜★ 『老人の晴れ舞台』
私は見ていることしか出来ない
今夜もずっと見届けよう
そこに生きるものたちを…
その日 くっきりと見渡せるほど澄み渡った夜
町の広場では一人の老人の葬儀が行われていた
人々は思い思いの衣装に身を包み
悲しみが霞むほど鮮やかな葬列を作っていた
私はまた一人 空へと還るのかと
やわらかな光を放ち それを見届けていた
彼はこの町で産まれ育ち
町の長として 小さいながらも人々が集まる豊かな町に育てた
のびのびと育った家畜 黄金色の稲穂
花も踊り出す水路 恵を循環させる水車
彼は努力を惜しまず 皆を励まし 笑顔が絶えぬよう
賑やかな色で町を飾った
彼の愛情が注がれた町の人々が作る列に
彼の功績や敬意が示されていた
私は ふと人々を見てみた
悲しみに暮れて 涙を流している者は居ない
みな 笑顔であり 歌を唄い 彼の棺を囲っていた
安らかな顔に口づけをし 彼を見つめていた
私は葬儀と言うものを 何度となく見てきた
人々は 黒い衣装に身を包み 死者を悲しみ
冷たい涙を流し その場所は静かな悲しみの色で
染められているものを何度も
しかし ここにはそれが無かった
ここにあるのは 鮮やかな あたたかな色だった
死への悲しみより 老いてなお 町を愛し
町のために生きた 彼への感謝や労いが
人々の心を埋め尽くしていたのだろう
そして 人々は彼を愛し 彼も町の人々を愛していた
穏やかな顔で それが分かった
人々は肩を抱き合い 唄い 踊った
まるで彼が 夜空から見ているのが
分かっているかのように身を包む衣装が
彼の愛した町に咲いた
とても鮮やかで 悲しみも争いもない町だよ
と伝えるように 美しく
夜が深まり 彼の最後の晴れ舞台は
幕を閉じようとしていた
澄み渡った夜空を人々が眺め
最後の別れを 告げていた
彼は ありがとうとやわらかく語り
穏やかな顔で 夜空へ包まれただろう
私は 見上げる人々の想いが彼へと届いていると
きらりと瞬いてみせた
見上げる人々は 笑顔にあたたかな涙を滲ませていた
死を悲しむのは当然のことですが
あたたかなエンディングを迎えることもあるものですと 拙い文章ですが伝われば良いなと思ってます。