第四十夜★『祭り囃子と提灯』
私は見ていることしか出来ない
今夜もずっと見届けよう
そこに生きるものたちを…
この日 私は子供たちのはしゃぐ声に
おやおや?なにかあったのかな?
と 目を覚ました
一際はしゃぐ声がする方に
なにごとか と町を見下ろしてみると
古びた神社の木々には提灯が連なり
真ん中には大きな太鼓
夏の装いの子どもたちが
きゃっきゃ わはは と笑い合い
出店では 子どもたちが
景品を取ろうと必死になっていた
人々の信仰も希薄になり
古びてしまっていたこの神社の神木と
かつて会話を楽しんだことがあったのを
思い出した
そこで私は 神社の守り主に
そっと語りかけた
『久しいな 神木の精霊よ』
「おお 星ではないか 久しいのぉ」
精霊はふわっと姿を現し 月に腰掛け
蓄えた髭を撫でながら
ほっほっほ と久方ぶりの訪問に
愉快に笑った
「今日はこの神社が創建されて
ちょうど200年なんじゃよ
よくもここまで皆が
守ってくれたもんじゃ」
精霊は優しい顔で
人々を見下ろしながら
「ほんとにうれしいのぉ」
と小さくこぼした
『かつては人も減り
少し荒廃したように見えたが
見違えたものだな』
と 私がいうと
「ほっほっほっ 星よ
これは人々が ワシの神社が
200年を迎えるにあたって
一生懸命 掃除をしてくれたお陰じゃよ
あの鳥居も見よ
見違えるように綺麗になっとるじゃろ」
たしかに かつては一部は朽ち
色褪せた鳥居が 朱色を取り戻し
艶やかな光沢を纏っていた
「境内も 皆が磨いて
修理を施してくれたおかげでな
神も満足しておるよ」
「それに…ワシにもしっかりと
しめ縄と紙垂もこの通りじゃ」
新しくなったそれを
かわいがるように 私に見せると
誇らしげな顔をした
ずいぶんと嬉しそうな精霊を見て
思わず瞬いた
「節目とはいえ ふたたびここに
活気が戻るのは
なんとも感慨深いものじゃのう
星よ 見るがいい 人々の笑顔を
ワシらからしたらほんのわずかの命を
存分に楽しんでおる なんとも愛おしい」
しばらく 互いに沈黙しながら
人々を見ていると
母親に連れられた小さな子供が
神木に触れてると 精霊はそれを
優しく見守った
「お母さん この木はすっごい古いね」
「そうね 私たちが生まれる
うんと前からここに居て
私たちを見守っているのよ」
「すごいね!
僕この木が気に入っちゃった
毎日お水をあげにくる
そうしたらもっと立派な木になるよね? 」
母親は ふふっと笑いながら
「そうね でもその前に あなたの病気を治すのが先よ」
と子供の頭をそっと撫でた
こほこほと咳をする子供は元気よく
「早く病気が治りますように」
と手を合わせて神木に願った
気づけば精霊は 子供のそばに寄り添い
ただじっと見つめていた
「星よ ワシは奇跡を起こす力もない
じゃが この子の病が良くなるように
祈ろう」
そう言うと 精霊は子供の頭に触れ
そっとなにかをつぶやいた
手を合わせる子供は
ふわっと何かを感じたのか
空を見上げた
精霊は優しく微笑み
すっと姿を消した
「お母さん 今誰かが頭を撫でて
くれたような気がしたよ」
「あら それはこの木の精霊さまが
あなたの願いを聞いてくれたのかも知れないわね」
さぁ帰りましょうと
親子は神木を後にしていった
『精霊よ あなたは
奇跡は起こせないと言っていたが
その優しさはきっと届くはずだよ』
ほっほっほっ
と笑い声だけが 空に響いた
私は 神木の精霊の
優しい顔を思い浮かべ
夜空に一つ瞬いた
お読みくださってありがとうございます^ ^
近所の小さな神社でお祭りがありました。
きっとこの神社の守り主も優しく見守ってくれたことでしょう。