第四夜★ 『寄り添う形』
私は見ていることしか出来ない
今夜もずっと見届けよう
そこに生きるものたちを…
近ごろ 目覚める時間が早くなった私は
町から少し離れた 木々に包まれた
小高い丘の上の 小さな古い家を見つけた
丘から見下ろす家々から
暖色の明かりが花を咲かせだしたころ
古い家の煙突から 綿あめ色の蛇が
私のもとへ ゆらりと登り始めた
この静かで やわらかなひとときを
暖色の下で 思い思いに過ごしてる
煙突から蛇が旅立ちを見届けたころ
丘の家の窓から 二つの影が映っていた
年老いているが とても元気そうな夫婦の姿だった
妻の作る手料理を満足そうに味わい
微笑み合い 語り合っている
このひとときは 一枚の絵画のようだった
家をしばらく眺めていると 私が見ているのを
知ってるかのように 森から声が聞こえた
産まれてからこの丘に住み
朝から夕方まで 夫は木を切り
汗を流し その木を薪にしたり
町へ売りに行っているのだと
そして 切った木に代わり 新しい木の子供を
何本も何本も 植えてくれているのだと
年老いた老木が 教えてくれた
この森をずっと大切に 愛してくれてるのだと
老木は 葉を揺らした
私は そうかと思った 愛しているから
年老いても町へ行かず
この丘でひっそりと暮らしてるのだと
妻の夕食を楽しみ 妻が片付けを終えたあと
夫婦に 静かな時間が流れた
夫は妻に話しかけ 妻はそれにうなずく
夫の飲み物が無くなると 何も言わず 注ぐ妻
妻が少し震えたら 膝に 夫はそっと布を敷いた
この 自然の動作に 私は見惚れていた
ああ こうして何も言わずとも
お互いのことを理解し 想い合っているのだ
これが連れ添った二人の形なのだと
町が穏やかな眠りに着くころ
夫が窓を開け 空を見上げ 私を見つめた
指を差す夫に妻もつられ 私を見つめた
二人の膝にはあたたかな布が一枚
肩を寄せ合い 微笑み 森がそれを包んでいた
私たちは しばし無言のこの時間を楽しんだ
私からしてみたら 人の営みとは
一瞬のもので とても短いものだ
しかし この夫婦のように一瞬でもやわらかく
共に寄り添う姿が 人の中に溢れると良いものだ
私にとって短くとも 人にはより長く あたたかく
そう届くことの無い想いを込め
老夫婦に向けて そっと瞬いた
夫婦の姿 やわらかな時間を
少しでも多く 長く溢れて欲しいなと言うお話でした。
相変わらずベタなお話ですが、ゆったりとした時間に読んでいただけたらと思います