第三十九夜★『魂の降る夜』
私は見ていることしか出来ない
今夜もずっと見届けよう
そこに生きるものたちを…
ある島国を長いこと見ていると
必ずこの時期に 多くの光が
降りそそぐのを目にすることがある
『またこのときが来たようだ』
私は 今夜もその光景を
そっと見ていた
その光は家々に降り立つと
人々に寄り添うようにただ
あたたかな光を放ちながら
そっとたたずんでいた
それは魂と呼ばれ
人が人の器としての役目を終えると
魂となり 空へと還っていくもの
それがこの時期になると
かつての愛する家族 思い出の場所
生前 思い入れのあった場所などに
懐かしむように 降り立つのだ
人々は この時期になると
まるで魂が帰還するのを判っているように
供物を添えて その者を想い 天に祈り
『今』というものを 魂に語りかけるのだ
人々の目には決して見えることのない
魂たちは それに呼応するように
柔らかく光 ときには物悲しげに
青く光りを変えたりしていた
とある 家を見ていると
生前かわいがられていた 老犬の魂が
夫婦の元へと降り立った
思い出し 涙する妻に
老犬の魂は 寄り添い
『私は大丈夫ですよ
また今年もここへ還ってまいりました』
と語りかけていた
『生前 こんなにも愛してくださり
今もこうして想っていただけてるだけで
私の魂は幸せです
どうか涙をお止めください』
と魂は妻の涙を拭うように
ふわりと光った
すると 夫は
「ほら 今年もこうして
あの子が還ってきてるんだ
笑顔で迎えてやろう
再び空へ還るその日まで」
とそっと肩を抱いた
「そうね」
と妻は涙を拭うと
老犬の魂は
『よかった
奥さまと旦那さまの笑顔が
私の何よりの宝物です』
と 2人の周りを
ぐるりと包み込んだ
「あぁ 今年もここにいるんだね
ありがとう 還ってきてくれて」
夫婦は見えることのない
魂を感じたのか かつての笑顔で
魂に微笑んだ
不思議なものだな
と 私は思った
人には決して見えることのない魂を
どうして感じたのだろうか
すると不思議がる私を見ていた月が
そっと語りかけてくれた
『星よ それは愛というものだよ
愛は人が器を想うのではなく
魂を想うこと
大切に想う心はやがて魂に届き
器を失ってもつながっているもの
だから あの夫婦には見えなくても
伝わるのだよ』
私は 不思議と納得してしまった
見下ろす家々では みながその魂を
感じているかのように 笑顔で迎え
共に時間を過ごしているように
見えていたからだ
明け方
私がそろそろ眠りに就こうとしていると
多くの魂が また空へと
還っていくのを見た
愛とはあんなにも輝きを放ち
それでいて 姿 形は変われど
つながっているものなのだな
そう思った 私は
魂たちに またこの時期になったら
その姿を見せておくれ
そう願い 魂に負けないように
優しく瞬いてみせた
今回のお話は、お盆のお話でした。
魂の話にするとスピリチュアルなものになってしまいそうでしたので、なるべくやわらかいお話にしております。




